燃え上がる街。
響き渡る悲鳴と怒号。
かつて見慣れた平和な町並みは、あっという間に地獄へと変わり――

少年は、ただ呆然と目の前の光景を眺めていた。


「邪神を殺せ」

その一言を口々に繰り返す人々は、手に手に武器を持って誰かを探しているようだった。


やがて、少年は見る。
大勢の人に囲まれ、石を投げつけられる数人の人影を。


それは、あまり評判の良くない老婆だった。
それは、近所に住んでいた青年だった。
それは、少年に優しくしてくれたエルフ族の女性だった。


「こいつらが邪神だ! 邪神を殺せ!」

その言葉に後押しされるように、人々は次々に石を投げつけ、取り囲んだ数人をいたぶる。
彼らが叫んだ言葉は、周囲の声にかき消されて少年の元まで届かなかった。


それは狂気だった。


とどまることを知らない強烈な感情の渦に、少年も次第に巻き込まれていった。
我知らず、邪神と呼ばれた人を取り囲む輪の中に入っていた。

そして、少年は見る。
少年の眼前、今まさに石を投げつけようとする父と母の姿を。


いつも自分につらくあたった父。

それを見て見ぬ振りをし、さらに怒りの捌け口を自分に向けた母。


カッと、少年の頭に血が上り――

次の瞬間、叫んだ。


「あの二人も邪神だ! 僕は見たんだ!」


父と母が輪の中に引きずり出され、石を投げつけられた。

少年は、自分のやってしまった事にぞっとした。

やめてくれと叫んだ。
みんなを赦してくれと叫んだ。

しかし、少年の声が誰かに届くことは無かった――


人々にも、神にも。


10年前。
帝都キルナスで起きた『邪神狩り』の事件だ。