あとがき 「魔導師と皇帝」


 私の中で、UPRISINGという作品は、その最初のバージョンである旧UPRISINGの頃から、一つの大河ロマンの印象があります。
 故郷を奪われた少女が剣を取り、帝国という巨大な敵に反旗をひるがえす。旅をしながら、時に成り行きで、時に自ら進んで、人々のために戦う彼女は、やがて歴史が求めたかのように巨大な流れの先頭に立ち、ついには帝国に革命をもたらします。
 特に、-新説-ではその流れは明確になり、帝政国家の民主化という大テーマが打ち出されます。そしてもう一つ、一つの国の変革の歴史を描く一方で、その大きな流れに翻弄される人々と、彼らの心のぶつかり合いを描く事もUPRISINGという作品は目指していました(上手く出来ているかは分かりませんけど)。

 その中で、ジャスティンというキャラクターは私の中で常に特異な位置にいた気がします。完全版では、その特異性に関わらずあまり活躍の場が無かったため、-新説-では思い切って色々な場面に登場させました。それがまさか人気投票で1位を取るほどになってしまうとは、作者である私も予想できませんでしたが、けれど、思い返してみればそれほどのキャラクターだったような気もします。
 1人の魔導師の少年が宮廷魔導団に入り、同じ年頃の皇子と出会う。魔導師の少年は大人の社会になじめず、また皇子の方も、皇帝を神格化している国家ではありえない程、気軽に歩き回ります。はみ出したような二人は意気投合し、帝国を変えようと意気込みますが、理想半ばに皇子は倒れ、魔導師も失意のうちに城を去ることになります。
 そうして、当てもなく流れ着いた村で革命の少女と出会い、彼女と共に帝国を旅した魔導師は、ついに、かつての自分の居場所に帰り、親友を暗闇から救い出します(そういう意味で、UPRISINGという作品はジャスティンの『行きて帰りし物語』でもあるわけです)。

 UPRISINGが大河であるなら、ジャスティンたちのエピソードは、大河になる前、上流の流れといえます。ジャスティン・レオン・峰雪の3人の若かりし頃(笑)の話は、帝国が皇帝の独裁国家になった過程でもあり、敵側の人々の過去でもあり、彼らとリディアが重なり合っていく、その下地でもあります。
 今回、人気投票という一つのきっかけを得て、私の中で、この3人のエピソードをより深く掘り下げてみたいという欲求が生まれました。
 というのも、私は-新説-UPRISINGという作品で、敵側の人々(某女神を含め)を「悪人」として描きたくなかったのです。
 「悪い事をする普通の人」を描きたかった。そして、悪い事を打ち砕かれた彼らは、生きる事でその償いをする。そういう話が書きたかったのです。
 ただ、そのためには、彼らがただ倒されるための記号ではない、血肉を持った人間として描かれなければいけません。
ゲーム中で出来る限り描いてきたつもりでしたが、まだ私の中には描き足りない、そういう思いが眠っていたのも事実です。その思いが、ファンの皆さんの声に応援されて、今回こうして一つの実を結べたのだと思います。
 『ジャスティンは、レオンへと駆け寄り、その肩をつかんだ。どきりとするほどに、その肩は肉が落ち、細くなっていた。』
 これは、ゲーム中でも描かれた1シーンですが、しかし、小説として、この一文として描かれて、初めて血肉を得たようにも感じます。

 小説としては、最終的にUPRISINGの世界観や帝国の話、〈迎撃魔法〉が出てくる魔法戦闘など、色々と個人的に書きたいと思っていた事まで盛り込めて、思い描いていたものは全て書ききる事が出来たように思えます。
 魔導師と皇帝の友情の物語、楽しんでいただけたなら嬉しいです。

 最後に、本編とは少し違う部分も見受けられたかと思いますが、笑ってご容赦いただければ幸いです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

2008年 秋 タイナカサチ『愛しい人へ』を聞きながら
有明タクミ


  

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