3 神聖皇帝の誓い


 城内は、密やかなざわめきに包まれていた。しんと静まり返るわけでもなく、かといって騒ぎ立てるわけでもなく、人々は声を潜め、けれど盛んに話し合っている。
 さわさわとしたざわめきを、ジャスティンは聞くともなしに聞いていた。杖を抱え、いすに座り込み、ジャスティンはひたすら、日が落ち、暗くなった城の中庭を見つめ続けていた。
 すぐそばでは、峰雪が服をきつく握り締め、うつむき、座っていた。

 ここは城の一室、宮廷魔導団に与えられている部屋だった。毛足の長い絨毯に、ラピス材で作られた机といす。掛けられた絵画は帝国でも指折りの芸術家のものだ。中庭に面した窓は広く、季節によって様々に彩られる中庭を見下ろすことができる。
 そんなこの部屋は、来客者を迎えるためにしつらえられた物だ。しかし今、この場に来客の姿は無く、二人の宮廷魔導師が明かりもつけずに座っているだけだった。
「……レオン、遅いね」
 ぽつん、と峰雪が言葉を落とす。もう何度聞いたか分からないその言葉に、ジャスティンはあいまいな相槌を返しただけだった。
 訓練場でセバスから知らせを受けた後、レオンはすぐに〈奥の間〉へと戻り、自分達は仕方なく、この部屋で待っていることにした。この部屋は、廊下を突っ切ればすぐにカルセドニア城の本丸とも言える〈中の宮〉へ出ることができる。〈中の宮〉と〈奥の間〉はつながっているため、自分達の部屋にいるよりはるかにレオンに近い場所にいる事ができた。
 峰雪はじっと座っていたかと思うと立ち上がり、しばらく城内を歩き回っては、戻ってきてまた座ると言う行動を繰り返していた。だが、ずいぶん時間が経ったが、めぼしい進展は無かった。
 また峰雪が立ち上がったため、ジャスティンは窓の外から目を戻し、峰雪の方を見た。
「そう何度も行っても変わらないだろう」
「でも、何か新しいことが分かるかもしれないわ」
 そわそわと服の裾をいじりながら、峰雪が言う。それが落ち着かない時の癖だとジャスティンは知っていた。
 そのとき、唐突に扉が開き、廊下の光が矢のように部屋の中に差し込んだ。
 驚き、振り向いた二人が見たのは、光の中に立ち尽くすレオンの姿だった。逆光になった彼の顔から表情は読み取れなかったが、しかしジャスティンは、レオンの瞳が光っているような錯覚を受けた。
「二人とも、来てくれないか」
 その言葉に、峰雪がはじかれたようにレオンのそばへと駆け寄った。
「レオン! お父様の具合はどうなの!?」
 叫ぶように言う峰雪に、しかし返事はせずに、レオンはもう一度言った。
「ジャスティン、来てくれ」
 ジャスティンが立ち上がると、歩き始めるのを待たずに、レオンは振り向き廊下へと出て行った。峰雪が一瞬、困惑したようにジャスティンの方を振り向いたが、すぐにレオンを追って廊下へと飛び出した。ジャスティンは杖を手に持つと、レオンを追って歩き出した。

 廊下を抜け、〈中の宮〉に入る。社交パーティーなどに使われる大広間を抜け、長い階段を歩くと、その先には玉座の間がある。二人が連れて行かれたのはそこだった。
 人払いがされているのか、それとも皇帝の一大事に主のいない玉座など守っている場合ではないのか、そこには誰もいなかった。空の玉座の前にたどり着くと、レオンは振り向き、二人を見つめた。
「父上は、心の臓の病気らしい。もしかしたら寝たきりになるかもしれない」
 息を呑んだ峰雪に、レオンはちょっと笑いかけた。
「いや、心配ない。命に別状は無いそうだ。処置が早かったらしくて」
 今度は横で見ていて分かるほど、峰雪の肩から力が抜けた。ジャスティンも、自分が気づかぬうちにずいぶん肩に力を入れたことに気づき、そっと力を抜くと口を開いた。
「それで? 何かあるんだろ」
 レオンが頷く。熱に浮かれているような、かと思えば静まり返っているような、妙なレオンの雰囲気が、ジャスティンには気になった。
 しばらくレオンは黙っていたが、やがて意を決したように口を開いた。その言葉は、ジャスティンと峰雪を驚かせるに十分な内容だった。
「父上が退位される事になった」
 レオンが、続けて言った。

「そして、僕が皇帝になる」

 ジャスティンは驚いたが、同時に、やはりそうか、とも思った。ヴォードが倒れたと聞いた時から、こうなる可能性は考えていた。
「父上は、今回のことで不安になったんだと思う。……もし、仮に――嫌な想像だけど――父上が今日亡くなっていたら、帝国は誰が次の皇帝になるかで揉めていただろう。
 もちろん、第一位の帝位継承権は僕が持っている。だけど、僕はまだ成人していない。皇帝になれるかと言われたら、今のままじゃ難しいだろう」
 ジャスティンは頷いた。カルセドニア帝国では皇帝は神の一族であると考えられている。つまり帝王神権説(王権神授説)であり、皇帝の位や権威は神から授けられたものであると言う考えだ。神の力が皇帝家の血に宿り、代々伝えられていると考えられてきた。
 現皇帝の息子であるレオンは、当然のごとく神の血筋の末裔であり、皇帝となる権利を持っている。だが、それ以外にも皇帝になる権利を持っている者たちがいる。皇帝の親族……すなわち、公爵の位を持つ貴族達だ。
 彼らは、皇帝家に生まれた姫が貴族達の元へ嫁いだ事でその位を得た者たちだ。
 カルセドニアでは神の力は男子に伝わるとされ、娘には伝わらないとされている。しかし、神の力は伝わらずとも、その血には神の力を受け止める〈器〉としての力が残っていると考えられ、それを受け継いだ者にも皇帝になる権利は与えられていると考えられていた。
 歴代の皇帝は皆男子である。そして皇帝家に男子が二人以上いる時は、皇帝になった者以外は皇帝の地位に就くこともなく、また妻を娶ることもなく生涯を終えた。妻を娶り、その血を伝えてしまっては、神の血を引く直系の血筋が増えてしまうためだ。
 だが姫たちはそのような事はなく、その時々に権力を持った貴族の元へ妻として嫁いで行った。そして、姫を妻として娶った貴族は公爵の位を授けられ、万が一直系の血筋が絶えるか、あるいは直系の血筋がいたとしても何らかの事情で皇帝の地位につけない時、血に眠る〈器〉に神の力が移ったとされ、皇帝となる権利を得るとされてきたのだ。
 レオンが危惧しているのは、その事だ。成人していない自分が皇帝になる事は、異例と言ってよい。必ず、公爵の位を持つ貴族達や彼らに追従する貴族達が反発するだろう。
 しかし、現皇帝が指名し、皇帝位を譲るとすれば、いかに貴族達が反発しようとその決定を覆すことはできない。
 ジャスティンは、まだ成人していないレオンに帝位を譲ることを決意したヴォードの内心を思った。息子かわいさに皇帝にしようと考える人物ではない。ヴォードの目には、レオン以外に皇帝になるべき人物が見当たらなかったのだろう。
(それも当然、か……)
 己の利権ばかりを考える貴族達。もし、公爵の中から皇帝を選べば、その公爵と同じ派閥に属する貴族達ばかりに利が行き過ぎることになる。そして、それはいずれお家騒動につながるような、問題の火種となる――過去何度か、この国は跡継ぎを巡って血なまぐさい争いを起こし、時には国家が分裂する危機にすら陥ったことがあるのをジャスティンは知っていた。
 貴族達の争いは、確実にこの国に動脈硬化を起こしている。次の皇帝に誰がなるかによっては、動脈硬化した部分は膨れ上がり、いずれは大出血を起こして帝国と言う生き物を死に至らしめるだろう。
 ジャスティンは、この国がずっと前から細い綱の上でバランスを取っていたことに気づき、身震いした。
「父上は、僕を皇帝にする事を明日には発表するそうだ」
 レオンの言葉で、ジャスティンは我に返った。
「……そうか。おめでとう、かな。お前もとうとう、皇帝になるんだな」
 ようやくジャスティンがその言葉を搾り出すと、峰雪もぎこちなく微笑んだ。
「そうね。お父様のことは心配だけど、喜ばしいことね」
 そして、今度はいたずらっぽい瞳でレオンを見つめた。
「そうすると、私は皇帝陛下付きの侍女になるのかしら」
 その言葉に、ようやくレオンも緊張が解けたように自然な笑みを見せた。
「そうなるのかな。……実はもう一つ、考えていることがあるんだ」
 レオンの表情が、生き生きと輝いた。
「僕は、〈神聖皇帝〉を名乗ろうと思う」
「……なるほどな」
 ジャスティンが応えると、レオンが驚いた顔で彼を見た。
「これだけで分かったのかい?」
「なんとなく、お前の考え方って分かるしな」
 レオンが、声を出して笑った。
「……ねぇ、ちょっと……私にも教えてよ」
 一人仲間はずれにされたような気がして、峰雪が口を尖らせる。そんな彼女に、ジャスティンはふっと笑いかけた。
「つまり、こいつは帝国を変えようとしているのさ」
 レオンの顔が嬉しそうにほころび、頷いた。それが、自分の考えが的を射ていたという答えだと受け取ったジャスティンは、咳払いを一つすると話し始めた。
「昔から、この国の皇帝は〈神聖皇帝〉か〈暗黒皇帝〉、どちらかを名乗るしきたりになっている。それは知ってるよな?」
 峰雪は頷いた。カルセドニアの歴史を学んだ者なら、一度ならず聞いた事のある話だ。
 その由来は、建国の頃にさかのぼる。当時、大陸のこの地方には神聖王国エドニアと魔帝国カルスという二つの国が存在していた。互いに争いを繰り返していた両国だが、ある時偶然に、両国の王子と皇女が出会い、二人は恋に落ちたと言う。この二人が、カルセドニア建国の祖となる統一帝エルヴィンと皇后リディナスだ。
 二人は父王達を説得し、ついに二つの国を一つにすることに成功する。しかし、両国の王達は新しい国の建国にあたって、二つの条件を出した。
 一つは、両国の貴族や騎士団をそのまま残すこと。これが〈古い貴族〉と呼ばれる貴族や〈黒剣騎士団〉〈黒竜騎士団〉といった騎士団になった。
 もう一つが、皇帝は常に〈神聖皇帝〉か〈暗黒皇帝〉、どちらかを名乗ると言うものだった。ただし、この名は良い皇帝、悪い皇帝という意味ではない。神聖王国由来の派閥に近い立場を取るか、魔帝国由来の派閥に近い立場を取るかを示すために名乗るものだった。
「けれど、今はずっと〈暗黒皇帝〉を名乗る皇帝が続いている」
 ジャスティンの言葉をレオンが引き取る。
「うん。父上も〈暗黒皇帝〉だし……それに、僕は父上から〈暗黒皇帝〉を名乗るように言われた……」
 レオンが視線を落とし、一瞬、寂しげな表情を見せたため、ジャスティンはヴォードからどのように言われたのか聞くのをやめた。普段は仲の良い親子だが、珍しく言い合いをしたのだろう、ジャスティンはそう思った。
「……でも、〈神聖皇帝〉を名乗ることと国を変えること……どうつながるの?」
 峰雪が、私にはまだ良く分からないんだけど、と不満げな顔をする。
「知ってるだろ? 建国当時、確かにこの国には二つの国に由来する二つの派閥が存在した。……けど、今はもう神聖王国由来の派閥は存在しない」
 ジャスティンの言葉に、峰雪が頷く。ジャスティンは先を続けた。
「時の皇帝が〈神聖皇帝〉を名乗れば神聖王国派閥が、〈暗黒皇帝〉を名乗れば魔帝国派閥が強い力を持てた。〈神聖皇帝〉と〈暗黒皇帝〉が交互に現れているうちは、両者のバランスを保っていることができたんだ。
 ……だが、ある時このバランスが崩れた。理由はさまざまだと思うが、一説には魔帝国由来の派閥の後ろ盾を得た方が皇帝にとって利益になるようになったからだと言われている」
 レオンが、うつむいた。
「うん……魔帝国由来の貴族は、経済的にも軍事的にも、大きな力を持っていったんだ。長い時間をかけてね。そうして、〈暗黒皇帝〉を名乗る皇帝が続いて、神聖王国由来の派閥は潰えてしまったんだ。今では、魔帝国派閥の貴族しか残っていない。彼らの後ろ盾を得なければ、いかに皇帝であっても満足に国を動かすことはできない。
 ……父上はそう言っていた」
「でも、だからこそ〈神聖皇帝〉を名乗る意味がある」
 ジャスティンは杖をトン、と床に立てた。
「今、確かにこの国はなんとか動いているかもしれないけど、けれど色々な矛盾が存在することも事実だ。旧弊を打破して、新しい国を作る……そのためには、魔帝国由来の貴族たちの私物になったこの国に新しい風を吹き込む必要がある。〈神聖皇帝〉を名乗ると言うことは、皇帝が彼らと決別すると宣言するに等しい」
 私腹を肥やし、権力闘争に明け暮れる貴族達。彼らは既得権益を守り続けるために官僚機構すら取り込んでいる。錆び付き、疲弊した官僚機構は、満足に機能しているとは言いがたい。
 そして、帝国中に蔓延する貧富の格差も、終わらぬ隣国との戦争も、結局は貴族達が自分達の利益のために作り出しているものだ。
 これを打破するためには、これまでとは違う、新しい何かが必要だ。
 話すうちに、ジャスティンの口調は次第に熱を帯びていった。まるで、自分の中に積まれていた薪に、メラメラと火がついたようだった。その火種はレオンだ、とジャスティンは思った。普段はのんびりとして見えるレオンの中に、燃える炎のような思い――理想があることに、ジャスティンはずっと前から気づいていたのだ。
 今、その理想の炎は〈神聖皇帝〉という名を伴って、ジャスティンへと燃え移っていた。
「だから、〈神聖皇帝〉を名乗ることは、この国を変える第一歩になるんだ」
 ジャスティンが締めくくると、峰雪はようやく納得が言ったらしく、しきりと頷いていた。だが、すっと形の良い眉をひそめると、気遣わしげに二人を見つめた。
「でも、そうすると貴族達を敵に回すことになるわ。……大丈夫かしら?」
 ただでさえ、レオンは成人前に帝位に就くのだ。さらに〈神聖皇帝〉を名乗るとなれば、貴族達の反発は相当のものになるだろう。だが、レオンは熱をこめて答えた。
「うん。それについても考えてあるんだ。六大都市の力を借りようと思う」
 レオンは、帝国の地方都市の中でも特に大きな、力を持つ6つの都市の名を挙げた。
帝国は元来完全な中央集権ではなく、地方に多くの権限を委ねている。特に六大都市と呼ばれる都市には、半ば自治権すら認められており、地方の政治・経済の中心となっているだけでなく、帝国内の流通や産業に大きな影響力を持っていた。
 これらの都市は、地方領主と呼ばれる貴族達が治めている。彼らは中央の貴族――つまり、帝都やカルセドニア城に常におり、領地からの収入で暮らしている貴族達とは一線を画している。中央の貴族が帝国の政治を司るのなら、地方領主はその下で各領地の政治を司る。
 たとえば、中央の貴族は貴族議会――皇帝と20名の貴族からなる帝国の最高意思決定機関――への立候補や、候補が定員を超えた時の選挙に参加できるが、地方領主はできない。反面、中央の貴族は自分の領地に人を送って定められた税の取立てなどを行わせることしかできないが、地方領主は中央が定めた範囲で、領地での税率を自由に定めたり、独自の法律を制定したりすることができた。
 立場としては地方領主の方が下だが、六大都市をはじめ中央の貴族達と比肩する財力や権力を持つ者も決して少なくない。
 レオンは言う。
「六大都市は人口も多いし、経済力もある。周囲の地域への影響力も強い。
 ……なにより、独自の産業がある」
 頷き、ジャスティンは指を折って数え始めた。
「街道都市ルーナス。これは陸上交通の要の街で、帝国の陸上輸送を管轄してる。
 水上都市オンクウ。こっちは、帝国中の水路を利用した水上輸送の管轄だったな。
 鉱山都市エイビスには、帝国最大のミスリル銀の鉱山があって、帝国のミスリル産出量の6割を占めている。
 観光都市オルセナは、観光業で帝国内外に名が響いているし、交易都市ローディスは対外貿易の拠点だ。
 そして、魔法都市レスティナは、帝国……いや、大陸最高の魔法技術を有している」
 レオンは勢い込んで言った。
「そう。それらの産業は帝国全土に影響力のあるものだ。後ろ盾にするに足るよ」
 地方領主たちも魔帝国派閥の貴族とはいえ、その考え方は中央の貴族達とは異なっている。皇帝が〈暗黒皇帝〉を名乗ることによる利益の多くは、中央の貴族達にしか回らないのだ。むしろ、中央の権限が強まり、地方への負担が増すと同時に中央の貴族達がますます派手な生活をするようになってきた昨今の流れに、地方領主の多くは反感を抱いている。レオンが改革を掲げた時、味方についてくれる可能性は十分にあるだろう。
「でも……大丈夫かしら」
 峰雪は、心配をぬぐいきれないらしい。不安げな光を瞳にたたえる彼女に、レオンはことさらに明るく言った。
「貴族たちの宮廷での立場や権力闘争は、つまるところ、平和な時代にしか意味のないものだと思う。乱世になった時とか……本当の“力”が必要になった時に力として発揮できるのは、むしろ六大都市が持っているような力だよ」
「でも、レオン。今は平和な時代だわ」
 峰雪の言葉に、ジャスティンはすっと、冷たい手で背中をなでられたような気がした。興奮が少し冷め、ジャスティンの中に冷静な思考が生まれた。
「……そうだな。言われてみれば、そうだ」
 ジャスティンは、レオンに向き直った。
「たしかに、バルディアとの戦争は続いているけど、国内の政治は安定している。六大都市が力を持っているとはいえ、中央の下についている存在であることに変わりは無い。
 ……おまえの言う“力”が、通用するかな?」
 だが、レオンは自信に満ちた表情で、大きく頷いた。
「大丈夫。きっと、上手くやれるさ!」
 その顔に、トン、とジャスティンは胸を突かれたような気がした。レオンの熱意が、まだ若いジャスティンの心を揺さぶった。こいつを手伝おう、こいつと一緒に帝国を良くしよう。そんな想いがジャスティンの中に芽を吹き、根を張った。
「……そうだな。やろうぜ、レオン!」
 ジャスティンが手を伸ばすと、レオンがその手に、自分の手を重ねた。峰雪は不安げな表情で二人の顔を見回していたが、やがて大きく息を吸うと、意を決したように大げさなため息をつき、表情を笑みの形に引き締めた。そして、自分も手を伸ばし、重ねた。
「そうよ。私達が頑張れば、きっとできるわ!」
 峰雪の言葉に、ジャスティンもレオンも大きく頷いた。

「僕は、この国を変えたい」

 レオンの声が響く。

「僕は――誰もが、自由に、平等に――幸せに暮らせる国を作りたい」

 レオンの誓いが、玉座の間に、朗々と響き渡った。
 手を重ねた三人の心には、眼下にまだ誰も踏み込んだことの無い原野を見下ろした時のような、高揚感と期待が広がっていた。
 これから自分達が、その原野に踏み込み、新しい何かを築き上げるのだ。


  

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