「はぁ〜……ゆ・う・う・つ」
「ふーん」
「憂鬱だわ……あぁ、憂鬱。どうしてこんなに憂鬱なのかしら」
「……あの日?」
ぐしゃあああああああっ
「容赦ないな、お前!」
「うるさいっ! 憂鬱なのよ! 憂鬱って言ってるんだから、聞くべき事があるでしょ!?」
「……スリーサイズ?」
ぐしゃあああああああっ
「るはあああああああっ!」
「きーっ! ゲーム制作が上手くいないのよ! もう!」
いざゲームを作り始めても上手くいかないことはよくあります。私もしょっちゅうあります。そもそもゲーム制作は他のジャンルに比べても必要な労力が多い場合が多く、挫折しやすい分野でもあります。今日は、特に作り慣れていない人が陥りがちな、ゲーム制作に潜む落とし穴について見てみましょう。
「ねぇ、ハムちゃん。プロット作って、本編作り始めたんだけど、なんかもうダメっぽいのよ……」
「そう諦めるなって。プロットあるなら、あと作るだけだろ。どんな感じなんだ?」
「あのね、主人公のお父さんから親子3代にわたる史上空前のスケールのファンタジーを作ろうと思うの」
「親子3代? どっかで聞いた事あるような……って、そんな長い話作ってるのか? 予想プレイ時間どんぐらいだよ」
「1000時間」
「……馬鹿だろ、お前」
「きーっ、馬鹿とはなによ、馬鹿とは!」
「アホ、最初は短編から作れって前の回(『作り始める前に知っておきたい事』)でも言ったろ。なんでいきなり長編に行くんだ、それも無意味に神様レベルの長編に」
「だって作りたいんだもん! ぷんぷん!」
「喝っ! 気持ちは分かるが、そんなだから挫折するんだ!」
作り慣れない人が陥る落とし穴で一番多いのは『壮大になり過ぎる事』でしょう。情熱の赴くままにあれもこれもとキャラクターや設定を作ったり、複雑なシステムをいくつも作ったり、短い作品だと盛り上がらないと思って大きな話にしてみたり……私も実際何度もやりました(そして挫折)。
しかし、作り慣れないうちは自分の力量が把握できていませんし、作業量がどれだけになって、どれぐらい時間がかかるかも分かりません。私のように何本か作っている人間でも、予定通り完成する事が出来ずにずるずると時間ばかりが経過する事は多くあります。この時、あまりに壮大なお話で制作に要する時間が膨大であると、『え、もう○か月経つのに、まだこれしかできてない……完成の目途が全然立たない……』『まだ作らなきゃいけない素材、作らなきゃいけないシナリオがたくさんある……作りきれるの?』と感じてしまって、そのままお蔵入り……という展開になります。ほぼ確実に。
「うえーん! その展開はヤだよー! ハムちゃん助けてー!」
「仕方ないな……対策を教えよう。それは長くしないことだ」
「そのまんまだー!?」
別の回でシナリオに関する話はやりますし、お話の全体枠を作ってからゲームを作るノウハウの紹介もしていますので、詳しい事についてはそちらに譲ります。ここで言っておきたい事……それは、まず短めから始めた方がよい、と言う事です(短編という意味ではなく)。これまたほぼ確実に起きる事ですが、作っているうちに色々追加されたり、脱線したりして制作開始当初よりお話は伸びます。初めから長大な作品を作っていると、伸びた分が重くのしかかってもれなくお蔵入り……となってしまいます。
「分かるか、フィリス。作りたい気持ち、作りたいエネルギーがある事はよく分かるし、それを思う存分ぶつけたい気持ちもよく分かる。その情熱があるからゲームを作れるんだし。でもな、情熱だけじゃなくて、その一方で冷静に手綱を引くような計画性も必要なんだよ。そして時には作った物、作る予定の物を切り捨てる厳しさも必要な時がある」
「ハムちゃんもある?」
「あるよ。『To Realize! 』を例に出そうか。当初作ってた大ボス切ったし、制作後半でもアルシェスが故郷に戻ってデヴァイサーを封じてた遺跡を攻略するエピソードを切った」
「おぉ……切ってるんだ。でも、切っちゃってお話おかしくならない?」
「どうしても必要な物は別の所へ移してある。たとえば、最後のダンジョンで古代に存在した機械魔法文明について、ある人から教えてもらうシーンがあるな? あれは当初アルシェスの故郷でやる予定だった。両親の仇との戦いも。やった人は思い当たるシーンがあるはず」
「予定してた大ボスは?」
「他のキャラに役目を譲らせた」
「うーん、そうやって短くする事も、時には必要なのね……ちなみに、制作って一般的にどれぐらいかかるものなの?」
「作る内容によるが……」
同じプレイ時間であってもイベント部分が多い場合とダンジョン攻略や戦闘が多い場合では制作にかかる時間は大きく変わってきます。基本的に、10分程度のイベントシーンを作成するのには1時間必要だと考えた方がよいでしょう。対して、ダンジョン攻略や戦闘ならば(作り込みにもよりますが)2〜3時間の制作時間で1時間(あるいはもっと)程度のプレイ時間を稼ぐ事が出来ます。手っ取り早くプレイ時間の長い作品を創るのなら、ダンジョンや戦闘を多めにするのが良い、という風には言えます(ケースバイケースですが)。
また、素材を自作するなら、その時間も必要です。素材制作はやろうとするとキリがないため、1つ制作してみて、そこから必要な時間を概算するような作業は絶対に必要です。たとえば、顔グラフィック1枚描くのに1時間かかるとしたら、30人分のグラフィックを描くのには30時間必要になります。1日1時間しか時間が取れないとすれば、顔グラフィックをそろえるだけで1か月(しかも休みなし)かかることになります。
一応、参考までに私が制作に要した時間を掲載しましょう。
Pray for You(プレイ時間2〜3時間):
1か月(ただし、大学時代の夏季休暇中。一枚絵や立ち絵を描く時間もふくめて1か月。ゲーム本体だけなら、2週間ぐらい)
-新説-UPRISING(プレイ時間40〜時間):
1〜2年(ただし、リメイクのためシナリオの土台あり。戦闘システムは1から作り直したため、その時間含む)
To Realize! (プレイ時間10〜15時間/1周):
2年(もっとか? SRPGコンバータの開発に1年弱かかってる)
木精リトの魔王討伐記(プレイ時間30〜時間):
1年弱(と思われる。記事執筆時点での予想)
木精リトの諸国漫遊記(プレイ時間2〜3時間):
1週間(かなり例外的。これは必要な素材、キャラクターや世界観、システムなど全てそろっている状態から制作を開始している(番外編だったため、本編の内容を流用できた)。ダンジョン2つ+町1つのマップとシナリオ、必要最低限のデータベースの制作のみだとこれぐらいでも可能か。ただし、後述するが『RPGツクールVX
Ace』は制作にかかる手間が2000、XPより小さいために早いと言うのはあるはず)
プレイ時間1000時間の大作:
想像不能。作れる気がしない(笑
「うーん、うーん……」
「なんだ、フィリス。また作れなくなってるのか」
「うん……なんかね、もう作る気が湧かないの。お話も思いつかないし。最近、パソコン立ちあげても、作れなくて唸ってばっかり」
「エネルギー切れだな。カッコよく言えばスランプだが……」
「ねぇ、なにかいい対策ない?」
「ただのスランプなら、人それぞれだな。ひたすら作る事で解決する人もいれば、しばらくしたらひょっこり作れるようになる人もいる。だが、お話のエネルギー切れなら放っておいても治らない」
「お話のエネルギー切れ?」
「詳しくは別の回で」
「ちょっと! そこ肝心なとこなのに!」
「これは『物語キャパシティ論』という俺の新しい持論に関する話なんだ。割と大きな話だから、きちんと別の回に話すよ。ただ、簡潔にまとめてしまうと、お話は動くためにエネルギーを必要とするんだな」
「ううん? エネルギー?」
「そ。例えば、登場人物3人で100時間のお話を書くのは難しい。100時間のお話にするなら、10人、20人といった数の登場人物がいないと作れない。逆に、100人の登場人物が出てくるお話を1時間にまとめるのも難しい。つまり、登場人物の数とお話の規模は正に相関するんだな。これは登場人物に限らず、およそあらゆる内容に共通する。そこで、登場人物や設定にはそれぞれお話を動かすためのエネルギーがあり、このエネルギーの範囲(キャパシティ)の中でお話は作る事が出来る、という考え方をする。これが『物語キャパシティ論』だ」
「むむむ、なんだか難しい……でも、たしかに長編マンガって、長く続いてると後半になるほど登場人物が多くなっていくね」
「そうそう。新キャラを登場させて作品のキャパシティを増やして、その増やした分で新しいお話を作っているんだな。まぁ、ここでは細かい説明は抜きに解決法に注目しよう。まずは、単なるスランプの対策から」
・スランプの場合
お話の続きは思いつくし、プロットもある。素材は必要な物がちゃんとそろいつつあり、ためらう理由は何もない……はずなのに、作れなくなる事はあります。そういう時は、いわゆるスランプでしょう。スランプ脱出法は人それぞれだと思いますが、代表的な物をいくつかあげておきます。
1)ひたすら作る
ダメでもいいからひたすら作ります。そうするうちに、段々ノッてきて見事スランプ脱出……というやり方。精神論に見えますが、脳科学的にこじつけると脳の「側坐核」と言う部分が人間のやる気や快感に関わっている、という話があります。この側坐核、何もしないとやる気を出さないのですが、一歩踏み出して実際に作業を開始するとやる気を発揮し、それによって作業が進み、さらにやる気が出て……という循環を生み出すと言われています。これを「作業興奮」と呼びます。
作業興奮を起こすには、簡単な作業からの方がいい、とも言われています(ハードルが低くて始めやすいから)。シナリオを書くのが億劫なら簡単にダンジョンを作ってみる、など、自分にとってハードルが低いと思われる作業に手をつけてみるとよいかもしれません。
なお、作ると言ってもパソコンの前で唸っているだけではダメですよ。
2)別の事をする
開き直って別の事をします。別のゲームを作ってもいいのですが、ゲーム制作はアウトプットの作業なので、映画を見る、本を読むなどインプットの作業の方が良いように個人的には思います。とはいえ、時と場合もありますので、小説を書いたり絵を書いたりと言った作業でもよいでしょう。ちなみに、この講座の記事はゲーム制作がノっていない時に書いています(笑 たぶん、この記事を書きあげる頃にはゲーム制作を再開したくなっているでしょう。
3)人に見せる
親しい友人や協力してくれている人に見せてみるのがよいでしょう。反応があれば嬉しくなりますし、アドバイスをもらえばそれが突破口になる事もあります。
4)素材探しをする
思い切りネットサーフィンをして、ここぞとばかりに素材を探しに電子の海にこぎ出しましょう。新しい素材に巡り合えると、それだけで創作意欲が刺激される事はよくあります。素材に限らず、芸術作品に触れるのもよいかもしれません(映画や小説に触れるのも、このうちに入るかもしれません)。
「なるほどー……スランプは一過性の物だから、何かのやり方で解消すればいいのね」
「そういうことだ。次が物語のエネルギー切れの場合。こっちは深刻。作り続けるか撤退するかの分岐点になる。腹をくくろう」
・物語がエネルギー切れの場合
詳しくは別の回でやりますが、物語が動くにはエネルギーが必要です。私たちが物を食べて、それを分解してエネルギーを作るように、物語は登場人物や世界設定、お話の構造を分解してエネルギーを作ります(たとえば、伏線を張っておけばその回収を行うお話を作る事が出来ます)。そのエネルギーが物語を動かすのですが、詳しい話はまた今度。
ここで知っておいてもらいたいのは、「物語のエネルギーを使い果たしている場合、どんなに頑張っても続きは作れない」と言う事です。
エネルギーを使い果たしている、ということは、現状の登場人物や物語、世界観のままではこれ以上お話を作れないことを意味します。いうなれば、物語の容量(キャパシティ)を超えてお話を広げようとしているため、続きが作れなくなっているのです。その対策は、抜本的な物が要求されます。
1)お話を短く仕立て直す
キャパシティを超えたお話になっているのですから、短くまとめなおす事になります。例えば、4人の仲間がいて、それぞれにエピソードを作る……このエピソードを消化した時点でお話は中盤、まだ続きが必要なのにもうネタ切れで作れない、という場合、4人のエピソードを消化するタイミングで物語が終わるように変更します。
あるいは、4人のアイデアはそのままで、例えば彼らがある事件に巻き込まれた1エピソード、と言う形で短編にしてしまう方法もあります。公開中のゲーム『Black Sealer』はこのパターンです。あの作品は、元は中〜長編規模だった作品ですが、中盤まで作った所でキャパシティ切れとなってボツ、1エピソードだけ取り出して短編に作りなおした物です。
また、予定していたエピソードを1つ2つカットし、その分他のエピソードの厚みを増す事で対応するのも一つの手です。前述の『To Realize!』の例はまさにそうだと言えるでしょう。
2)登場人物や設定を追加する
お話に新しい登場人物や設定を追加し、キャパシティを大きくする事でお話の続きを作れるようにします。長編の連載マンガで、新キャラが登場してお話が進んでいくのはこのパターンです。ただし、不用意に次から次へと追加してしまうと作れる限界を超えて一気に破たん、という事にもなりかねないため注意が必要です。
この例は『To Realize!』です。当初は普通のファンタジーだったのですが、ネタ切れてボツになりかけ……そこで、AD.Bank作品として作り直し、機械魔法をベースにした世界観に作り直した事でキャパシティを広げて一つの作品としてまとめなおしています。一応完成しましたから、結果としては成功だったと言えるでしょう。
ほかにも、新しい人物など大掛かりな追加を行わず、ちょっとした設定変更を行う事で対処する方法もあります(ただ、効き目は小さいので、『あるエピソードが作れなくて止まってしまう』などに使うのが適切かと思います)。たとえば、牢に捕らわれた仲間を救いに行く、という話で作りあぐねた場合、仲間が牢から強制労働の施設に送られ、その収容場へ助けに行く、という風に変えるような物です。一見、行き先が変わるだけに見えますが、「なぜそこで強制労働が行われているのか」「強制労働で何をしているのか」といった設定を加えていくと、新しい広がりを持ったお話にする事が出来、突破口となりえます。
「たとえば、どんなふうに登場人物を増やせばいいのかな?」
「色々あるが、きちんと既存キャラと同じぐらい作りこむことが大事かな。何点か挙げてみよう」
(1)きちんと作りこむ
登場させるからには、それまでいたキャラクターと同じぐらい作りこみましょう。くれぐれも、手抜きな感じが出てはいけません。作りこむ気が無い場合は、完全に脇役と割り切って、脇役に徹させるようにしましょう。
難しく考えずとも、新しく着いた町で主人公に依頼をする町長(脇役)ぐらいなら、誰しも自然に作っているはずです。
(2)時には事前の伏線を作ってでもキャラをなじませる
物語の途中から追加したキャラクターは、えてして途中から唐突に登場する事になってしまいます。しかし、それだとお話に入り込めなかったり、重要なポジションにつけずに浮いてしまったりと上手くいかない可能性があります。そういう時は、それまで作っていた部分を変えてでも新キャラを絡ませておくと、突然現れた印象を弱める事が出来ます。例を挙げれば、『-新説-UPRISING』のウィルでしょうか。彼女の伏線が序盤から張られていた事は、遊んだ方には分かるはずです(彼女が実際に登場するのは終盤に差し掛かってからでしたね)。
(3)既存のキャラとかぶらない
既に存在しているキャラと生い立ちやストーリー、性格や(可能なら)容姿がかぶらないようにしましょう。かぶってしまうと、既存のキャラと衝突してお互いに弱めあってしまいます。
(4)(可能なら)既存キャラと絡みを持たせる
昔の知り合いなど、既存のキャラ、特に主人公や仲間のキャラクターと関係を持たせるのは、途中からでもうまくお話になじませる一つのやり方です。しかし、やり過ぎると登場人物間の関係が複雑になり、分かりにくくなるので注意しましょう。
「他に、登場人物だけでなく世界観や設定に手を加える方法もいくつか挙げておこう。もっとも、これは大規模な変更になる事が多いから、やる時はそれなり覚悟してな」
(1)既存のキャラに設定を加える
新キャラ登場と同じぐらい高頻度で使える手です。ただし、隠された秘密がある、特殊な能力を有している等、既にキャラクターに強い個性が与えられている場合は追加するのが難しい場合も少なくありません。主人公だけでなく仲間にも目を向け、追加できるエピソードが無いか、消化できていないアイデアが無いか探してみましょう。
例ですが、『To Realize!』のアルシェスは、割と制作途中に色々追加しています(生い立ち等。まぁ、これは世界観を変えた時に一緒に加えた物が大半ですが)。
(2)世界観を変える
既存の世界観に、新しい要素を付け加えます。『To Realize!』がまさにそうで、元は単なるファンタジー世界だった所に『機械魔法』という要素を取り入れて、新しい世界観にしています。こうすると、えてしてお話自体が変わる事もあります(というか変わります)ので、キャラクターや作品コンセプトを残したまま根本的に変える時に選択肢にあがるやり方でしょう。
余談ですが、水銀党も『機械魔法』のアイデアで書き悩んでいた小説が書けた(『北洋戦記』)と言っていたので、意外と『機械魔法』は使えると思うのですが……(苦笑 興味のある方はAD.Bankへどうぞ。
(3)素材を集める
フリーの素材を集め、新しいダンジョンの作成やマップの作成に挑みます。解決に至らないこともあると思いますが、新しい素材を使うと言う事は、それまで存在していた物以外の要素を作品内に取り込むと言う事です。これはイコール物語のキャパシティを大きくすることに当たります。どうにもならない時は、挑戦してみる価値があるでしょう。
ただ(個人の判断の問題ではありますが)、この状況はボツの瀬戸際にあると言っても過言ではありませんので、他の人に素材作成を依頼するのはちょっと待った方がいいかもしれません。
3)ボツにする
どうしようもない時は、ボツにするしかありません。撤退の判断も、時に必要となります。ただ、撤退する事ですべてが無駄になるわけではありません。キャパシティ切れになっている、と言う事は、キャパシティを使いきる程度には登場人物やお話、データベース等を作ったと言う事です。それらは別の作品を作る時に流用するなど、再利用する事が可能です。独自のシステムを作っている場合、それを再度使う事も出来るでしょう。
例を挙げると、『To Realize!』の幽霊船です。あの幽霊船、実はエピソードもお話の展開も、ダンジョンすら、前述の『Black Sealer』からの流用です。だからあのマップだけ、他のマップと少し雰囲気が違うのですが……気づきましたか?(笑 ともあれ、幽霊船イベントが自然にお話の中に組み込まれていたことからも分かるように、上手く仕立て直せば一度作ったエピソードを再利用する事は難しくありません。めげずに再挑戦しましょう。
「なるほどー……でも、作った物を捨てるのはもったいないし、もう少し頑張ってみようかな。よし、新しい登場人物を投入だ!」
「……それでもいいが、作り過ぎてハマらないように気をつけろよ」
「うぅ〜……めんどくさいよ〜……」
「なんだ? 今度は何を唸ってるんだ?」
「あのね、自作の戦闘システムを作ったんだけど……戦闘一個一個を作るのがすごく大変で。敵のステータスとか全部スクリプトで打ちこむようにしたら、戦闘一回分作るのに1時間ぐらいかかるの……それに、手作業で打ちこむから、間違えて打っちゃったり、ゴチャゴチャになって分からなくなっちゃったり……」
「落とし穴にハマってるな、お前は……どうして、そう狙ったようにハマるかな」
「うふふ、地雷を踏むのは得意なの」
「自慢にならん。喝っ!」
「うわーん!」
実はあまり意識しませんが、制作に要する作業の効率というのは極めて重要です。私自身、この事に気付いたのは『RPGツクール VX Ace』を使い始めてからです。このソフトは流石に前『XP』『VX』のノウハウがあるおかげかスクリプト(自分でゲームの機能を作るための簡易プログラミングの機能)の制作が非常に容易になっている他、マップもオートタイルと呼ばれる機能が充実し、森や建物のチップの境界が自動的に補正されるため、(多少融通のきかないところはありますが)同じマップを作るのにも、かかる手間が前2作より軽減されています。
「実際、『木精リトの魔王討伐記』や『木精リトの諸国漫遊記』の制作は今までより断然早い。マップ作るのにかかる時間が、多分『To
Realize!』の時の半分以下だと思う。スクリプトづくりも簡単で『SRPGコンバータ
for Ace』は一カ月ぐらいで出来た。ウィンドウの作成とかデータの呼び出しとかも作りやすいし、RGSSコンソールっていう補助ツールがついてテストがやりやすくなったし。Aceで作って、俺はミドルウェアの重要性に気付いた」
「ミドルウェア?」
「ソフトウェアを作るためのソフトのことだ。この場合、プログラムやゲームデータ、画像や音楽など、ゲームの素材を制作するための中間のソフトのことかな。ゲームを作るためのソフトである『RPGツクール』もミドルウェアの範疇にはいる。このミドルウェアが優秀だと、同じものを作るにも手間がかからなくなる」
「手間がかからなくなるのは……まぁ、いいことよね」
「もちろん。手間がかからないと制作に必要な時間が減る。必要な時間が減ってサクサク作れるようになればモチベーションも維持できるし、短いスパンで次のゲームが出せるようになる。使える時間が増えるから、質の向上にも役立つだろう。また、ミドルウェアの範疇には自作のシステムも含まれる」
「私が作ってる、この戦闘システムみたいな?」
「そうそう。一つの戦闘を作るのに1時間かかるのと1分かかるのなら、後者の方が絶対にいい。あるいは、1つ戦闘を作れば、それを使いまわしていくつも作れるようにすれば、手間を減らす事が出来る。手間が少ないとたくさん作るのが苦にならなくなって制作の自由度が増えるし、後述するがバグの発生を減らすことにもつながる」
「そういう例ってなにかあるかな?」
「うちのゲームで言うなら『UPRISING』と『SRPGコンバータ』の差だな。『UPRISING』は、あれ全部イベントコマンドで制作してる(スクリプトが無かった時代)。一つの戦闘を作るために、一つ一つマップをコピー&ペーストで増やして、敵味方のグラフィックやパラメータも何十って数を手作業で入力してる」
「手間がかかってるね……」
「それに対して、『SPRGコンバータ』はデータベースで設定すればほとんどそれで済むし、『Ace』になってからはスクリプトをいじる必要もほとんど無くなった。そもそも、ループの処理や変数の処理が、イベントコマンドよりスクリプトの方が圧倒的に楽&効率的&高機能で、そういう点でも作る手間が桁違いに違う。正直に思うけど、『UPRISING』のシステムなんて、よくあんなものを作ったなと我ながら感心するよ」
「たしかに、同じ長さのゲームを作ろうとしても、作るのに手間がかかったら、当然制作にかかる時間は長くなるよね」
「そうそう。制作に時間がかかると挫折しやすくもなる。それに、バグの発生を減らす事も出来る」
「というと?」
「これは反省なんだが、『To Realize!』はダンジョンや戦闘のシステムが複雑なせいか、バグ報告が絶えない。そもそも報告してもらっても、解決しようがなくてお手上げ状態のも中にはあるし……プログラムを分かりやすく記述する、手作業でいちいち打ちこまなければならない部分を減らす、といった工夫をするだけでも、だいぶバグの発生は減らせるだろう。『SRPGコンバータ
for Ace』はそれに気づいて色々やったから、大丈夫だと思いたいが……」
「うーん、ゲームを作る時は、作る内容だけじゃなくて、作る手間にも目を向けた方がいいってことね」
他にも、適材適所で必要なソフトウェアを使うというのも重要です。たとえば、フォトショップやイラストレーターは優秀な画像作成ソフトですが、256色のドット絵を打つ時はEDGEなどドット絵用のツールを使った方が簡便です。
「とはいえ、おそらく多くの人にとって自作システムの効率性やミドルウェアの効率性を向上させる事は難しいだろう(たとえば、効率的だからといって簡単に『RPGツクールXP』から『RPGツクールVX Ace』に移行する事は出来ません。互換性が無いため)。そこで、普通の人にも出来る簡単な作業効率化のテクニックをいくつか紹介しよう」
(1)素材規格の統一
RPGツクールシリーズを使用していると、統一された規格の素材がひと通りそんざいしますから、それに合わせて作るのが無難でしょう。仮に自作する場合でも、例えば画像サイズを統一しておけば個別に表示位置を変えるなどの対応をする必要が無くなり、簡単に制作できるようになります。
(2)メモやエクセルの活用
シナリオを書く時、メモやワードでセリフを作成しておくのは一つの手です。『RPGツクール』ではイベント画面で『メッセージの入力』をいちいち呼びださなければいけないため手間がかかります。手間がかかる中で作業していると面倒になりますし、会話が途切れてしまって上手い文章が書けなくなったりもします。メモなどで書くのならば文章を打つことにだけ集中できるため、効率的に制作する事が出来ます。エフェクトなども簡単に書き添えておけばいいでしょう。制作後はイベントにコピー&ペーストして、改行位置を整えれば大丈夫です。また、この方法はバックアップとしても機能します。
例(実際に制作において使用したもの。メモ帳で作成)
BGM シーン4
「おっ、お許しください、おサムライ様!」
「ええい、黙れ! トノサマに逆らおうと言うのか!」
!
戸口の前で争う人々 スクロール
「滅相もございません! どうか……どうかお許しを!」
「ならば、さっさと税を払え!」
「し、しかし、今月分の税は既に納め――」
「なにぃ!? 払えないと言いたいのか! 払えないと言うことは、トノサマに逆らうと言うことだな!」
「めっ、滅相もございません! どうか、お許しくださいませ――!」
スクロール
「……あれは、いったい……?」
「なんじゃ、あれは! 兵士が、町の者に乱暴しておるのか!」
スクロール
ばぁん!
「いやぁ! 放して!」
主人!
「お頭ぁ、こいつ、その男の娘だそうですぜ」
電球
「ほほぅ、娘か……」
…
「ふん、町人の娘にしては、なかなか見られる顔をしておるではないか」
「よし、主人! 税を払うまで、お前の娘は預かっておくぞ!」
「そ、そんな……! どうか、どうかこの通り! お許しくださいませ!」
また、エクセルの使用も有効です。データベースの設定を作る時に、武器防具の名前やパラメータを最初からデータベースで作るのではなく、一度エクセルで作ってしまいます。こうすると、それぞれの道具のパラメータを簡単に比較できるので調節が楽ですし、増やしたり減らしたりする時も簡単です。また、ダンジョンで手に入る宝箱のリストやショップで販売するアイテムのリストを制作することで、見落としや重複を防ぐことも可能です。
このほかに、スイッチや変数をエクセルで管理したり、手元の紙に簡単にマップの下書きをしたりしてから実際に制作に取り掛かるのも有効です。
(3)便利なツールを使う
制作支援用のソフトを制作している方もいるようですし、それ以外のソフトでも使い方によっては制作の効率化に役立つものもあるでしょう。個人的には(やや値は張りますが)ペンタブレットをお勧めします。ペンタブレットとは、ペン型のマウスのようなもので、通常絵を描く人が使用する道具です(私もその目的で持っています)。このペンタブレットがマップ制作時に極めて役に立ちます。慣れればマウスで作るのに比べて圧倒的に早く作業できるようになりますのでお財布と相談して検討してみてもいいでしょう。
「なるほど〜、いかに効率よく、面倒くさくなく制作するかって言うのも大事なんだね」
「そういうこと。俺たちの目標はゲームを作って公開することなんだから、その過程の作業は楽な方がいい、というわけだな」
1)ゲームを作る上で、陥りがちな落とし穴がある。
2)落とし穴1:壮大になり過ぎる⇒短めに作る+情熱と冷静さを両立しよう。
3)落とし穴2:エネルギー切れ⇒スランプの時は脱出を図る。物語のエネルギーを使い果たしている場合は、大きく変えるか撤退するか腹をくくる。
4)落とし穴3:手間がかかり過ぎる⇒ミドルウェアやメモ帳の活用をして効率よく作業しよう。作業効率化は制作速度の向上やモチベーションの維持、バグの低減に役立つ。