「ハムちゃん、ハムちゃ〜ん! どんなお話にしたいか考えたよ〜!」
「おぉ、出来たか、フィリス。どんな話にするんだ?」
「えっとね、木霊(こだま)の女の子が勇者の役目を押し付けられちゃって、魔王倒しに行くお話!」
「……あれ? それ、俺が作ってるゲームじゃ……まさか俺の頭の中を覗……」
「細かい事は気にしない。ね? それに、もうシナリオ書き始めちゃったし」
「ね? じゃない! ……ん、待て。いきなりシナリオ書いてるのか?」
「そうだけど? オープニングとエンディングはもう出来てるの。だから、最初の町から……」
「喝ッ!! フィリス、お前はやってはいかんシナリオの書き方をしている!」
「え、ええっ!? そ、そんなバナナ……!」
「また古いネタを……とにかく、最初から順番に作るやり方してると途中で破たんするか、中だるみするかしてダメになるぞ」
「えぇ? じゃあ……エンディングから逆に作っていくとか?」
「そうじゃない。まずはお話の全体枠を考えるんだ。これを考えることこそ、きちんと一つのゲームを作る最大のノウハウと言っていい」
ゲームを作る時は、大抵シナリオが必要になります。ここではフリーシナリオ等ではない、原則流れのあるシナリオの作り方を紹介します。
まず最初にするべき事……それは全体の枠を決める事です。いくつかやり方はありますが、一番分かりやすく、かつ効果的なのは『起承転結』を用いる方法です。4コマ漫画ではこの考え方はおなじみですが、ゲームでもこの考え方は活用できます。誰しも一度は耳にした事があるかと思いますが、簡単に起承転結についてまとめると
起:お話の始まり。きっかけとなる事件が起きて、主人公が事件に巻き込まれていく。
承:それからどうした、お話が進む。ダンジョン攻略など事件の途中部分はここ。緩急で言うなら緩。
転:どんでん返し! ピンチ! 意外な展開や急展開で盛り上げるクライマックス。
結:オチがついておしまい。エンディングや後片付け。
これを使って、お話の『枠』を作ります。たとえば、こんな感じです。
起:ゴブリン退治を依頼される |
承:ゴブリンの洞窟へ行く |
転:ボスゴブリン登場! |
結:ゴブリンを退治して一件落着 |
非常にシンプルですね。ですが、基本はこの形です。たとえば、起の部分を『王様から魔王退治を依頼される』とすれば、承は魔王退治の過程となり、転は魔王との決戦、結は魔王を倒して一件落着……となるわけです。シナリオを書く前に作るべきは、この『枠』なのです。
「ふ〜ん、でも、これだとちょっと単純すぎない? 盛り上がるか、って聞かれると微妙だし……」
「そうだろう、これはあくまで基本だ。だが、大事なのはまず『起承転結の枠』を作ることだと言う事を分かってほしい。では、これをさらに応用してみよう。起承転結の枠の中に、さらに起承転結を入れてみる」
起: ゴブリン退治を依頼される | ||||
承:
|
||||
転: ゴブリンの罠にはめられピンチ! ボスゴブリンも登場 しかし承の魔法少女が現れ、助けてくれる。協力してボス撃破 |
||||
結: ゴブリンを退治して一件落着。ついでに魔法少女とゴールイン |
「どうだ、恋愛要素も入れてみたぞ」
「入れてみたぞって言われても……まぁ、こうやって起承転結の枠の中に、さらに小さい起承転結を入れる、って事なのね」
「そうだ。さて、フィリス、ここからが本番だ……さっき言ってたお前のシナリオを起承転結に当てはめてみ」
「えっと……」
起:王様から魔王退治のため勇者に任命される |
承: |
転:魔王戦 |
結:魔王を倒して一件落着 |
「あれ? 承の部分が空いちゃった。それに、転の部分も、魔王と戦うだけじゃちょっと単純かな」
「よく気づいた。それこそ、最初に『枠』を作れと言う理由だ。その空白の部分を放っておいたままシナリオを書き始めるから破たんしたり中だるみしたりするんだ。まず枠を作る。これ鉄則」
「まず枠を作って、その空白部分をきちんと作る、と……それは分かったけど、枠はどうやって作ればいいの? 適当に作ったら、結局同じ事じゃない?」
「その通りだ。二つやり方がある」
・枠の作り方
1)お話の規模から決める
「いきなりだが、俺はここで長編とか短編とか言う区分を改めて定義したい」
「というと?」
「普通、短編とか長編って物語の長さから決めるべ? 20時間超の長編! とか1時間でクリアできる短編……って風に。でも、ゲームでこの決め方は正直上手くないと思う」
「でも、言葉どおりにとらえるなら、1時間は短編だし、20時間は長編じゃない?」
「本当にそうだろうか? 映画やドラマ、小説なら、それでいいと思う。しかし、ゲームはプレイヤーが操作している時間がある。ダンジョン攻略や戦闘、本筋に関わらないサブクエストなどなど……これらの時間まで含めてプレイ時間○時間……と言っている」
「たしかに、ゲームはそういう時間があるね」
「だろう? ではシナリオを書くとき、シナリオ部分1時間、ダンジョン攻略39時間のゲームと、シナリオ39時間、ダンジョン攻略1時間のゲームを同列で扱っていいのか? という疑問がわく。少なくとも、同じ作り方で作れるとは思えない」
「う〜ん、言われてみるとそうかも。じゃあ、どうするの?」
「そこで先ほどの『起承転結』を利用しよう。この『起承転結』1つを『フレーム』という単位で呼んでみる」
お話の規模の決め方
短編:1〜2フレーム(起承転結1〜2回)
中編:4〜8フレーム
長編:11フレーム以上
「このフレーム単位でお話の規模を決める。だから、プレイ時間40時間でもお話自体は『起承転結』1フレーム分だとしたら短編だし、2時間でも(可能かどうかはさておき)11フレーム以上あるとしたら長編とする」
「ははぁ……じゃあ、短編を作りたいと思ったら1〜2フレームの枠をまず作って、長編にしたいと思ったら11フレームの枠を作る、そうして空白部分を埋めるようにしてお話を作っていくってことね」
「グレイト! そういうことだ!」
まずフレーム数を決めましょう。これが枠作りの第一歩です。フレームは組み合わせも色々あります。いくつか見てみましょう。
短編
タイプ1:
起 | 承 | 転 | 結 |
起承転結一回分。もっともシンプルな形です。ダンジョンが1つなら、だいたい1時間以内の作品になります。
タイプ2:
起 | 承 | 転 | 結 | 起 | 承 | 転 | 結 |
起承転結が連結した形。2つの事件が順番に起こります。
タイプ3:
起 | 承
|
転 | 結 |
承の部分に1つフレームを入れたタイプ。作品の中で、承の部分が最もアイデアが出づらく、中だるみしやすいので、このように承の部分に起承転結を入れるのは有効。
中編
タイプ1:
起
|
承
|
転
|
結
|
起承転結の中に、1つずつ小さな起承転結をいれたタイプ。一番オーソドックスかも。
タイプ2:
起 | 承
|
転 | 結 |
承の部分に起承転結を3ついれたタイプ。仲間が増えるイベントなど作る。
長編
タイプ1:
起
|
承
|
転
|
結
|
スペースの都合でフレーム数が少ないですが……(汗)ようは起承転結の枠の中にいくつもの起承転結を入れていきます。一番外の大枠は変えません。なお、作品規模だけからどこにどうフレームを入れるか決めるのは難しいので、下記の話の内容から決めるやり方と組み合わせてフレーム構造を設計しましょう。
「簡単な例だが、こんな感じ。最初の回でも言ったが、初めて作る時は短編から挑戦するといい。ということは、上の例の短編のフレームに合わせてお話を作ってみるのがいい、ということになるな。短編ではどうにも話がまとめられない、と言う人は4〜5フレームの中編にしてみてもいいだろう」
「4〜5フレームだと、どれぐらいのプレイ時間になる?」
「5時間ぐらいかな。だが、作り方によっては10時間ぐらいの規模も作れるだろう。1フレーム1時間ぐらいが目安だが、フレーム数が増えていくと加速度的に時間が増えていく傾向がある(と思う。感覚的に)」
2)お話の内容から決める
「規模から決めるのをトップダウン方式とすれば、これはボトムアップ方式だ」
「というと?」
「お話の内容から決める。たとえば仲間にしたいキャラクターの数が多ければ、必然的にフレーム数は多くなる。たとえば、1フレームのお話で登場人物20人……となるとちょっと難しい。別の回でやろうと思ってるけど、キャラクター(特に主人公や仲間)が一人増えると、それだけで1〜2フレーム分ぐらいお話は作れてしまう。これは大事な点で、仲間が増えたのにお話が増えないと消化不良(あるいは伏線未回収)となってしまうケースもある。こういう場合、フレーム数を増やしてやると良いだろう」
「なるほど……でも、作ってる最中でフレームを変えたくなったらどうすればいいの?」
「変えても大丈夫だ。このフレーム方式はある程度柔軟に運用できる。たとえば、さっき挙げたゴブリン退治の例」
承の部分(最初)
普通の村にしてアイテム補給するだけ
承の部分(変更後)
魔法少女の起承転結を入れる(登場人物が一人増えている)
「全体の起承転結には手を入れない。あくまで承の部分に起承転結を新たに追加する。あるいは逆に削除する。こういうやり方で作っていけば、破綻させずゲームの規模を変えていくことができる」
「結果として、短編から中編になる場合もある?」
「もちろん。ただ、注意しなければいけないのは、実際に作っていく中で必要・不要を判断していくことだ。それを忘れてとにかくあれもこれも……とやっていると、いつの間にか超長編になってて挫折……なんて事になりかねないからな」
「じゃあ、例を見てみましょう」
例 Pray for You(一応未プレイの方のために反転してあります)
起 オープニング
|
||||||||
承 フィリスと過ごす | ||||||||
転 邪神狩り
|
||||||||
結 邪神狩りを止める |
「例示のために細かく分けた。実際には2段目までが有効な起承転結だろう。全体で3フレームぐらいの感覚だ。これでプレイ時間2〜3時間ぐらい」
「私の代表作も、こうして見ると分解できちゃうのね……」
「そりゃ、そうだ。『Pray for You』からは俺もこの方式で作ってるからな。あと参考になるとしたら『To Realize!』だろう。あれもこの方式で作ってある。『-新説-UPRISING』も後半(観光都市あたり)からこの方式を本格的に使っている(前半部分はリメイク時の影響でイマイチ曖昧なので参考にしないこと)。」
「でもさ、ちょっと聞いていい? これ、起承転結ってだけだとちょっと無理矢理な感じがする部分があるよ。転のところなんて、ずいぶん盛り沢山な感じになってるし」
「いいところに気づいたな。これは、例示のために起承転結だけで表記しているから少し違和感があるはずだ。実際には、別のシナリオ構築ノウハウも使われている。が、それはまた別の回にしよう。煩雑になるからな。まずは、起承転結を使ったノウハウを身に付けてくれ」
「起承転結、ね。こうして見ると、お話の緩急もついてるわね。承の部分は比較的ゆっくりだし、転は本当に急展開だし」
「そうだ。緩急をつけてお話にメリハリを持たせるという意味でも、起承転結の考え方は重要なんだ」
1)いきなりシナリオを書かない! まずは『起承転結』を使って枠をつくる。
2)枠をつくる方法は、全体の規模から決める方法と内容から決める方法がある。
3)お話の枠を決めたら、その枠の空白を埋めるようにしてお話をつくる。
4)作りながら、必要不要になったら適宜フレームを変更する。ただし、全体の大枠には手を付けてはいけない。
5)承に「緩」、転に「急」を持ってくるとお話にメリハリをつけやすい。