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ゲーム制作講座column

心を動かす物語づくり 〜感動した! と言って欲しい!〜

「感動した!」
「なんだ、フィリス。久々の登場なのに、いきなりどうした?」
「機会があって他のフリゲ制作者の人たちに会ったんだけどね! 結構、私の作品を知っててもらえて、すごく感動したの!」
(注:この記事はニコニコ自作ゲームフェス2016の表彰式後に書かれています)
「そうか、それは良かっ……ん? あれ? お前の……作品? お前の?」
「そうよ! やっぱり、美人って罪ね。ふふん!」
「……(そういえば、話題に上ってたのは例の緑の髪のくるくるツインテールの子ばっかりで、こいつの話題は一言も無かったな……まずい。看板娘の地位が奪われていると知ったら、俺は槍でしばかれるかもしれん)……そ、そうだな、フィリス! やっぱり、お前が看板娘だよ、ははは」
「それでね、ハムちゃん! その時に聞かれたんだけど……感動するお話って、どうすれば書けるのかな?」
「感動するお話? また、難しいテーマだな」
「そこをひとつ、重い腰を上げて久しぶりに書いてみない?」
「そうだな……書けるかどうか分からないが、そういうことなら一本書いてみるか」

 心を動かす物語、感動するストーリー……お話を書く人間なら、誰しも書きたいと思うものです。しかし、実際に書くにはどうしたらいいのか。自分が感動したストーリーのようなものを書くには、どうしたらいいのか。それもまた、お話を書く人間なら、誰しも悩むものです。かくいう私も、いつも悩みながら書いています。今回は、心を動かす物語を書くにはどうしたらいいか考えてみましょう。

「初めに言っておこう。心を動かす物語、というのは技術で書けるものではないと思う。それが感動であれ、笑いであれ、悲しみであれ、人の心を動かすのは技術ではない。俺はそう信じている」
「どうして?」
「だって、技術ひとつで感動する話が書けたら、面白くないだろう。人間の創作というのは、そんなものではないと思う」
「じゃあ、講座やる意味なくない?」
「ある意味では、そうだ。だが、お話を書く上で、技術が必要なのもまた事実だと思う。お話を書く技術は、心を動かす物語を書く上での十分条件ではないが、必要条件ではある。だから、技術的な物を書くことにも一定の意味はあると思う」
「なるほどー……技術でないとしたら、何が必要なのかな?」
「そうだな。技術的な事を書く前に、それを書いておこう」

心を動かす物語とは、なにか。

 人の心を動かす、というのは、難しいことです。まして、そんな物語など、狙った通りに好きに作れるものではありません。おそらく、技術を超えたところに人の心を動かす物語はあるのだと思います。
 そんな物語を書く、書けるようになるには、どうしたらいいか。私が思う最も大事なことは、『自分が感動すること、面白いと思うこと、悲しいと思うこと……そういった自分の感情を大切にする』ことだと思います。そのためには、自分の体験や思ったことを大事にし、自分がどのように感じたのか、何に心動かされたのかを意識することが大切だと思います。また、映画やドラマ、小説や漫画、ノンフィクション、なんでもよいので色々な物を見て、自分が何に心を動かされるのか、自分がどういうことに感動するのか知ることも大切でしょう。

「俺も、いつもそれを意識している。結局、感情を動かす物語を書くには、自分の感情の動きを感じることが必要なのだと思う」
「確かハムちゃんは、『自分が面白いと思うものなら、少なくとも同じ趣味の人は同じように面白いと思ってくれる』って言ってるね」
「そうだ。そこから、さらに多くの人に面白いと思ってもらうために技術があると思ってる。だからこそ、まず技術の前にある『自分の面白い』を大切にして欲しい」
「とは言っても、それだけじゃお話は書けないよ。その『自分の面白い』を形にするための技術は無いの?」
「それが、この講座で書いてきたテクニックの数々だ。が、心を動かす、という感情的な部分に焦点を当てて、いくつかテーマを挙げることは出来るだろう。今回扱いたいのは、『物語のメッセージ性』、『普遍的テーマ』、そして『展開技法』というものだ」

物語のメッセージ性

「メッセージ性っていうと、いまいちピンと来ないんだけど、どういうものを指すんだろう?」
「そうだな。メッセージ性というと、なにやら難しいものを考えてしまいがちだが、ここでは難しくとらえず、『その作品を通じて、何を伝えたいのか』と考えてみよう」
「テーマとか、コンセプトってこと?」
「近い。テーマやコンセプトは、作品を作るために必要な『作品の骨格』のようなものだ。この骨格に色々肉付けして作品を作るわけだが、メッセージとは『その作品を通じて、結局何が言いたいのか』ということだと思う。テーマやコンセプトよりも、作者の意見・主義主張、伝えたいことが前面に出る印象があるな。まとめると、こんな感じ」

テーマ:何を描くのか
コンセプト:どうやって描くのか
メッセージ:描いたもので何を伝えたいのか

例を示してみましょう。

例1 新説UPRISING
テーマ:被差別種族の少女が起こす革命劇
コンセプト:大勢の仲間で協力して戦うSRPG
メッセージ:仲間と力を合わせる事の大切さを伝えたい

例2 木精リトの魔王討伐記
テーマ:勇者にされてしまった少女の苦労満載のサクセスストーリー
コンセプト:“勇者の証”で身分証明しながら冒険する
メッセージ:人との助け合い、支えてくれる人への感謝を伝えたい

「俺の中でも、多少漠然としたものではあるが、あえて文章にするとこんな感じかな。人によっては、もっと明確に言うことが出来るだろう」
「メッセージ性って、やっぱりあった方がいいのかな?」
「それは分からない。無くても良い作品は作れると思うし、あったからと言って必ず良い作品になるとも限らない。ただ、俺は作品にメッセージ性を持たせることは、フリーゲームの世界ではあってよいことだと思う」
「どうして?」
「フリーゲームは多くの場合、個人制作だ。そのため、作者の意見やメッセージを反映しやすいということが一つある。また、作者の個性や考え、もっと言ってしまえば人生観や価値観が表に出ることが、フリーゲームというジャンルの魅力の一つだと思っている」
「そう言われてみると、たしかに……フリーゲームを遊んでると、『この作品を作った人は、こんな人なんだろうな〜』って伝わってくること、あるよね」
「そうだろう。なんとなく、作り手の“ひととなり”が伝わってくることがあるのがフリーゲームの面白さだろうと思う。もちろん、そうでなくても面白い作品は多いけどね」
「でも、ハムちゃんが言っている『自分が面白いと思うものを作れば、少なくとも同じ趣味の人は面白いと思ってくれる』って言葉にもあるけど、自分が面白いと思うものを作る、っていうのは自分のカラーや好みを表現することだと思う。“面白い”を通じて自己表現している……って考えれば、そこに作者のメッセージがこもるのも、理解出来るね」
「……珍しくまともな意見だな」
「珍しくは余計だよ?」
「槍構えながら言うな、怖いから!」
「でもさ、メッセージ性なんて、どうやって出したらいいの? そもそも、何を伝えるのかも大事な気がする……」
「そこは、素直に考えていいと思う。自分が伝えたい、人に伝えてみたい、と思ったことを形にすればいいんじゃないかな。一つのやり方としては、自分の体験に根差したものを伝えるのはどうだろう?」
「自分の体験……っていうと、いじめにあったとか、社畜にされて病気になったとか、ひどい失恋をしたとか?」
「ネガティブなものばかりだが、フィリス、お前、大丈夫か? ……いや、別にネガティブな体験を書けとは言わない。書いてもいいけど。大事なのは、その体験から何を伝えたいのか、ということだ」
「体験から……伝える?」
「そうだ。どんな体験であっても、そこから思ったもの、得たもの、考えたものがあるはずだ。いじめにあった、としたら、その時自分が何を思ったのか、感じたのか。乗り越えられなかったのか、乗り越えられたのか。乗り越えられなかったなら、今自分は何を思っているのか。乗り越えられたなら、どうして乗り越えられたのか。……そういったことを自分の中で考えて、体験の中から得た気持ち、感動、強い思いをメッセージにしたらいいんじゃないかな。
 ただ、気をつける事が一つ。自分の体験を形にするのはいいが、体験をそのまま描く必要はない、ということだけは覚えておこう」
「体験をそのまま描く必要はない……って、どういうこと?」
「例えば、学校でいじめにあった体験を作品にするからといって、学校を舞台にして主人公がいじめにあう必要はないんだ。学校が会社でも部活でもいいし、ファンタジーの異世界でもいい。いじめにあうのが主人公である必要もないし、そもそも、いじめを描かなくてもいい。大事なのは、その中から得たメッセージは何か、ということだと思う」
「何があったか、じゃなくて、何を伝えたいか……ってことだね」

普遍的テーマ

「作品のメッセージ性、ということを書いたが、もう少し一般的な、技術的なものに近い内容についても扱っておこう。まず挙げるのは、普遍的テーマだ」
「どういうものなのかな?」

 普遍的テーマ、とは、言ってしまえば多くの人が感動するテーマです。なぜ、古典文学が読み続けられるのでしょうか。なぜ、王道と分かっていても面白いのでしょうか。なぜ、言語も文化も違う外国の作家の作品に、同じように心動かされるのでしょうか。それは、それらの作品の根底に、普遍的なテーマが存在しているからです。

「こういったものは、研究すれば各自で見つけ出せるものだと思う。むしろ、自分で見つけ出す過程こそが勉強のうちと考えることも出来るだろう」
「多くの人に共感されやすい物語、と言うことも出来そうだね」
「そうだな。どんなテーマを面白いと感じるのか、どんなテーマに共感するのか、それは各自で探してほしいと思うが、今回は例としていくつか挙げてみよう」

1)欠けたものを埋める
 「無い状態」から「ある状態」への変化、と言ってもいいでしょう。例としては、以前にも紹介したことのある『ぼくを探しに』(著 シルヴァスタイン、訳 倉橋由美子、講談社)という絵本があります。素晴らしい絵本で、学ぶところが大きいでしょう(ちなみに、この作品の最も素晴らしいところは、最後の主人公(ぼく)の行動にこそあると思うのですが、それは自分で読んでみてください)。この『欠けたものを埋める』というテーマは、お話の形としては原型Archetypeの一つと言えるもので、およそこのモチーフが使われていない物語は無いと言っても過言ではありません。だからこそ、これを意識して使えるようになると、共感を呼ぶ物語を書きやすくなるのでは、と思います。具体例は枚挙にいとまがなく、物理的なものでいえば、『奪われた宝を取り戻す』『さらわれた姫を助け出す』などになりますし、抽象的なものでいえば、『失った誇りを取り戻す』『壊れた家族が元通りになる』などが考えられます。

「ハムちゃんのゲームだと、どんな例があるかな?」
「いろいろだな。たくさんある。『リト』で分かりやすい例と言うと、物理的な物ならキーアイテムを手に入れて問題を解決する、心理的なものなら自分の出自を知って自分を受け入れられるようになる、とかかな」

2)大切なものの喪失
 これは、『欠けたものを取り戻す』の逆と言えます。『ある状態』が『無い状態』に変化することです。これも枚挙にいとまがなく、『事業に失敗して財産を失う』『恋人と別れる』『大切な人が死ぬ』など、物理的・抽象的に様々な物が考えられます。さらに、これは『失って取り戻せない』パターンと『失ったものを取り戻す(欠けたものを埋めるとセットになる)』パターンが考えられます。前者の例としては、仲間の誰かが死ぬ、故郷を失う、などがあるでしょうか。後者の例としては、仲間と離れ離れになる(もう一度集まろうとする)、大切なものが壊れる(直そうとする)、などが考えられます。
「『リト』で分かりやすい例でいうと、某重要アイテムが壊されてしまうシーンかな。えてして、こういう出来事の後はそれを直す(取り戻す)過程がストーリーの骨子になることが多い」
「物理的に取り戻す……って言うのが多いと思うけど、そうでない場合もあるかな?」
「あると思うぞ。例えば、誰かと喧嘩別れしたまま、その誰かが死んでしまう。もちろん、死んだ人は生き返らないから物理的に取り戻すことは出来ないが、たとえば、その人が遺した物からその思いを知って心の整理がつく、とか、親を失った子供が自分も親になって親の気持ちを知る、とか。この場合、内面的に解決されることが多いと思う」
「この場合、ストーリーの途中で誰かが死ぬこともあるだろうし、物語が始まった時点で既に死んでいて、主人公がそれを引きずっている……ってこともあるだろうね」

3)秘密の告白
 実は○○だった……というパターンです。伏線、あるいは伏線の変形とも言えるでしょう。クライマックスで明かされるも良し、徐々に明らかになっていくも良し。たとえば、謎の人物の正体が明らかになる、秘められた過去を話す、などでしょうか。状況の変化、という点から見れば、『欠けたものを取り戻す』『大切なものの喪失』の変形と見ることも出来そうです。前者の例なら、『実は血のつながった兄弟と判る』など。後者の例なら『過去に犯した罪が露見して信用を失う』などが考えられます。

「重要な点は二つある。『秘密は、秘密の告白とセットになっている』『秘密の告白は状況の変化を生じる』ということだ」
「どういうこと?」
「伏線の回でも行ったが、伏線は伏線の回収とセットになっている。同じように、秘密はどこかで明かされることとセットになっている。明かさないままだと、最後まで謎のままで終わってしまうから注意しよう(そういう作品も無いとは言わないけど)」
「もう一つは?」
「秘密が明らかになると、状況は変わる。謎を持っていた人物との関係性が変化したり、何らかの問題が解決されたり、といったことだ。場合によっては、主人公の外的目的が変化することもありうる。最近読んだものとしては、『暗殺教室』(著 松井優征、集英社)の殺せんせーが過去を告白するシーンが実に印象的だったな」
「そうすると、秘密が明かされる前から伏線を張れていると、いいかもしれないね。秘密が分かってから改めて見直して、『あぁ、そういうことか!』って分かると、何度みても面白い作品になると思う」
「たしかに、その通りだ。そういうやり方をしている作品としては、映画『シックス・センス』が分かりやすい。以前、どんでん返しの例として挙げたことがあったかな? 興味のある人は見てみよう」

展開技法

 先ほどの文章が『テーマ』について扱ったものなら、こちらは『テーマの見せ方』に焦点を当てたものです。

「素晴らしいテーマを選ぶことも重要だが、その見せ方も同じぐらい重要だ」
「料理と同じだね。味付けとか食材だけじゃなくて、盛り付けも大事ってことか」

1)物語の波を重ねる
「物語には色々な大きさの波がある。その波を上手く重ねると、物語に大きな盛り上がりを作ることが出来る」
「波……って、どういうこと?」
「お話の盛り上がり、ということだ。例えば、起承転結を考えてみよう。起でお話が始まり、承でだんだんお話が盛り上がって、転でクライマックス! 結で一件落着、という波がある」
「たしかに。この盛り上がりを波と考えるわけね」
「そうだ。そして、一つの作品は(中編以上なら)複数の起承転結から成り立っていることが普通だ。だから、お話の波を考えると次のようになる」

「左が作品の始まりで、右が終わりだね……でも、これじゃ、あんまり盛り上がってない気がする。上がり下がりはあるんだけど、それだけ、みたいな……」
「そう。起承転結をただつなげただけでは、大きな盛り上がりを作るのは難しい。そこで、もう少し幅の広い波を考えてみよう」

「波の数が少ない……そのかわり、波の高さが高くなってるね」
「そうだ。これは起承転結よりもおおきなスパンでお話の波を考えている。たとえば、ライバルキャラが現れて戦い、中盤のクライマックス! その後ライバルキャラは味方となり、真のラスボスと戦う最後のクライマックス! というようなイメージだ」
「主人公とヒロインが恋に落ちて、ラブラブの中盤! でも途中でけんかしてどん底……でも最後に仲直りしてハッピーエンド! みたいな感じでもいいかもね」
「そうそう、そういう発想が大事。そして、もっと大きな波も考えてみよう」

「波が一つ……でも、高いところが後ろにずれてるね」
「そう、これはお話の最初からずっと引っ張って、物語の最後にクライマックスが来るような波だ。たとえば、主人公の秘密が最後の最後で明かされる、仲間たちの絆が最後の最後に試される、というような展開だな」
「それはいいんだけど……結局、この波をどうやって使うの?」
「このお話の波は、実際の波と同じように、複数の波が重なると打ち消しあったり増幅したりする。上に挙げた3つの波を重ねてみよう」

「おおっ! なんか、後半に向けてすごい盛り上がってる!」
「そうだろう。それだけでなく、途中にも小さい波が存在し、お話が単調になるのを防いでいる……こういう、小さい波、中くらいの波、大きい波(もっと色々な種類でもいい)、という大きさの違う物語の波を作り、それを重ねるイメージを持つと、盛り上がるお話を書けると思う」
「ハムちゃんのゲームだと、なにがあるかな?」
「『木精リトの魔王討伐記』は、分かりやすいだろう。小さい波は、それぞれの町で起きる事件とかダンジョンの攻略。中くらいの波は、物語の開始から中盤の帝国戦に向けても盛り上がりと帝国戦のクライマックス、そしていったん一気に展開が重くなって、また盛り上がり、最後のクライマックスに向けていく盛り上がり。大きい波は、主人公であるリトの秘密や仲間たちとの絆、リト達登場人物の成長、といったところだろうな」
「こうしてみると、確かに色々な大きさの波が重なってるのね」

2)ギャップのある展開
「例を挙げれば、『コメディで面白く笑っていたのに、最後の最後にシリアス』と言うようなパターンだな」
「どんな例があるかな?」
「このパターンで面白い映画と言えば、間違いなく『ライフ・イズ・ビューティフル』だと思う。俺が初めて観たのは高校生の頃だが、ラストの印象深さは何年たっても色あせない。勉強したいと思っている人は、ぜひ見るべき。
 また、最近のものではNHKの木曜時代劇『ちかえもん』が実にうまかった(ネタバレになるので書かないが、最終回とそれに向けての展開がうまい。文句なしに感動した)。こちらもNHKオンデマンドで見られるはず。
 実は、『ロミオとジューリエット』(著 W. シェイクスピア、訳 平井正穂、岩波文庫)も同じだと思う。悲恋の物語として知られるこの作品だが、途中は登場人物同士の軽妙な掛け合い、性的な暗喩も入れた(今風に言えば下ネタを取り入れた)コメディが多く登場する。だが、後半、そこから一転、悲劇へと突き進んでいく。前半に笑える展開があるからこそ、後半の悲劇が引き立つのかもしれない。本作は普遍的なテーマ(悲恋)を含むとともに、そこに至る過程にも心揺さぶるための構図があることに驚かされる(ちなみに、周囲の人物がどんなに下ネタを言っていても純愛を貫くロミオとジューリエットの二人は決して下ネタを使わない。こういうセリフ回しの一つ一つにもテーマが宿っている。だから、この作品は本当に学ぶところが多い)。
 ちなみに、手前味噌だが『リト』はこれを意識している。ロミオとジューリエットが参考になったな」
「たしかに、コメディ中心で進んでいくけど、要所要所はシリアスだね」
「そうだ。……まぁ、ハッピーエンドにすべき、と考えていたから最後は悲劇でないが、それは作品のテーマや内容にもよるだろう。大事なのは、展開にギャップや変化を持たせることなのだ」

3)逆転のカタルシス
 不利な状況を一気にひっくり返す。これを『逆転のカタルシス』と呼びましょう。カタルシスという言葉は、『「心の中に溜まっていた澱(おり)のような感情が解放され、気持ちが浄化されること」を意味します。(中略)さらに、一般化して、「心の中にあるわだかまりが何かのきっかけで一気に解消すること」をいいます。』(引用 三省堂ワードワイズ・ウェブ 10分でわかる「カタルシス」の意味と使い方 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/topic/10minnw/036katharsis.html)という意味ですが、物語中では『ずっと我慢して、不利な状況を耐え抜いて、最後の最後に一気に逆転して解き放たれる解放感・快感』とでも定義しましょう。これも多くみられる技法ですね。圧倒的な強敵を相手に苦戦し、仲間たちが倒れていく……けれど、最後の最後に逆転して、困難を乗り越える。それは、主人公が困難や苦悩を乗り越えて力を発揮するのかもしれないし、仲間たちの絆が困難を超える力になるのかもしれない。逆転サヨナラホームラン、なんてのに憧れたり、感動したりするのも、これかもしれません。形はどうあれ、不利な状況、つらい状態、困難な課題を何らかの形で一気にひっくり返し、解決することは、感動の一つの形と言えるでしょう。

「比較的、短編でもやりやすい構図と言えるかもしれない」
「お話の一エピソードの中で取り入れることも出来そうだね。連載漫画だと、こういう逆転のシーンがあると『神回』なんて呼ばれたりもするみたいだね」
「それだけ人の心に響く、ということだろうな」
「ハムちゃんの作品だと、どんなのがあるかな?」
「リトの帝国戦の最後、大魔法で一気に逆転するシーンとかかなぁ。あそこは、『集団戦で勝利する(物語の山)』『相手の反撃で一転ピンチ(急降下)』『仲間たちの死亡フラグ(谷)』『フラグをへし折って反撃(急上昇)』という、物語のアップダウン(詳しくは、『面白いシナリオとは』の回を参照)と組み合わせて使っている」
「有名な作品だと、どうだろう?」
「カタルシスと考えるなら『アナと雪の女王』の例の名曲&名場面もカタルシスの一種だろう。あのシーンは、カメラワーク、登場人物の表情、目線、動き、曲との連動、などシーンの見せ方と言う点でも素晴らしいと思う。あれぐらい劇的なシーンを作りたいものだな」

4)積み上げてきたものを示す
「これは、短編では難しい。長編向きの技法だろう」
「どういうことなのかな?」
「主人公=プレイヤーが作品を通して積み上げてきたものを見える形にすることだ。たとえば、物語の最後のクライマックスで、それまでに出会った人たちが集まる、とかかな」

 プレイヤーは作品を通して、たくさんの物を積み上げていきます。それは、システムで言えばアイテムを集めたり、色々なマップに行ったりすることであり、ストーリーでいえば色々なイベントをクリアしたり、問題を解決したりすることです。これらは、ゲーム中で積み上げられてきたものであると同時に、プレイヤーが自分の体験として積み上げてきたものでもあります。そういったものが“見える”形になることは、ゲームというメディアに特有の心動かす物語の形の一つであろうと考えられます。もちろん、積み上げてきたものを示すわけですから、エピソードや登場人物の多い長編に向いています。

「ハムちゃんのゲームでは、何か例がある?」
「『-新説-UPRISING』でもやっているが、『リト』が一番分かりやすいだろう。ラストダンジョン突入前のイベントだな。『リト』では積み上げてきたものを示すと同時に、『自分をはっきり示す』という行動もしている(詳しくは『ハリウッド脚本式シナリオ術』の回を参照)。失われていた勇者への信頼を人々が取り戻す、と考えれば、『欠けたものを埋める』というテーマも満たしている」
「うぅん、一つのシーンに色々な技術が重なってるのね。こうして見ると、さっき話してた物語の波も、このシーンで重なって大きくなってるように見える」
「その通りだ。色々なテクニックが重なっているから、どうしたらこういうシーンが作れるのか分かりにくい、というのはあるのかもしれない。だが、よく分析してみれば使われている技法を見つけることが出来るはずだ」
「ちなみに、この『積み上げてきたものを示す』を上手くやるには、どうしたらいいのかな?」
「積み上げる過程……つまり、クライマックスに至るプロセスを丁寧に描いていくことだろう。とはいえ、一つ一つのエピソードに力を入れて、きちんと作り上げていけば、多くの人は自然と作れるんじゃないかな」

最後に 目指すところ

「最後になるが、まぁ、オマケ程度に今の俺の考えを書いておこう。俺は、物語とはつまるところ『人間を描くこと』なのかもしれないと思ってきた」
「人間を?」
「そうだ。物語が単なる事実の羅列と違うのは、そこに『人間が描かれているかどうか』だと思う。たとえば、幕末。色々な名前の人物が出てきて、色々な事件が起こるが、これを日本史の授業として習うと、単なる事実の羅列、単なる暗記事項になってしまう。ところが、どうだ。これが幕末を扱った小説や漫画、ドラマになると途端に面白くなる」
「たしかに……」
「もちろん、娯楽として面白くなるように演出している、というのはあると思う。だが、それを別にしても、ただの事実の記載と物語は違う。そこに『人間』が描かれ、その喜怒哀楽が描かれ、行動する姿が描かれているから面白いのではないか、と思う」
「そうだね。いろんな人が登場して、いろんなことを考えて、色々な関係性があって、色々な出来事が起こる……だから、物語って面白いのかも」
「もしかしたら、心を動かす物語を書くには、『人間』というものについての理解が必要なのかもしれないな。まぁ、これは哲学的な話だし、俺も出来ない事だから、話半分に聞いてもらえば、それでいい」


「なるほど〜……感動する物語を作りたい! って思うけど、こういう風に技術的なものもあるんだね」
「あくまで、作りやすくするための技術、と思ってもらうといいんじゃないかな。本当に胸を打つ物語というのは、こういったテクニックを超えたところにあると思うし、あるはずだと俺は信じている。けれど、物語を描くために必要な技術というものがあるのも、おそらく事実だと思う。こういった技術を踏まえたうえで、自分にしか書けない物語を書いてほしいと思うな」
「そうだね。じゃあ、ハムちゃんも、みんなに感動してもらえるテクニックをしておこうか?」
「そんなのあったか? ……って、なに槍構えてんだ!?」
「やぁねぇ、ハムちゃんの感動パターンと言えばこれでしょ?」
「何の感動――るはああああっ!


今日のまとめ

1)感動する物語を書くには、自分の中の感動を知り、大切にしよう。
2)フリーゲームにメッセージ性はあってもいいかもしれない。メッセージとは、描いたもので何を伝えたいのか。
3)心を動かす物語には、ある程度の技術はある。
4)技術としては、普遍的テーマや展開技法がある。



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