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ゲーム制作講座column

面白いシナリオとは 〜突き落とされて這い上がれ!〜

「おーい、フィリスー! フィリスー!? おっかしいなぁ、アイツどこ行ったんだ? 珍しく『ピクニックに行こう!』なんて言っておいて、こんな3000m級の山に連れてきたくせに、勝手にどっか行きやがって」
「そぉ〜」
「……うおっ! なんだ、この崖。やべぇな、落ちたら死ぬるな、これは」
「そぉ〜〜」
「それにしても、フィリスの奴はホントにどこに――」
「どーんっ!」
「うおおおああああっ!? あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
「さぁ、ハムちゃん! 今日のテーマは分かったわね!? ズバリ……突き落とされて、HA・I・A・GA・RE! さぁ、ハムちゃんカモン!」

…………

「……あれ? ハムちゃん? おーい」

 面白いシナリオとは? この問いに答えるのは難しいですが、いくつかセオリーとでも呼ぶべきものがあるのは事実です。それは王道展開であったり、予想を裏切る展開であったり……その中でもぜひとも使いこなせるようになりたいノウハウがあります。それが『突き落とされて這い上がれ』理論。主人公や登場人物を奈落の底に突き落としておいて、這いあがらせる――今日はそんなシナリオ構築技術を学びましょう。

シナリオの盛り上がりには山と谷がある

「うぅ……まだ身体の調子がおかしい」
「ごめんってー。身を持って例を示すのがいいと思ったのよ」
「だからって、人を本当に崖から突き落とす奴があるか! そんなに示したいなら、自分が飛べ!」
「やーよ、死んだらどうするの」
「死なないだろ、お前!」

閑話休題

「まぁ、いい。突き落とす前に説明しておかなければいけない事がある。それは、シナリオの盛り上がりには山と谷がある――つまり、盛り上がっている場面と、暗く落ち込んでいる場面がある、ということだ」
「お話の緩急ってこと?」
「ちょっとちがう。緩急はお話の勢い・スピード感の違いだ。お話の山と谷の曲線を微分したのが、お話の勢いと言っていいだろうな」
「今、読者のみんながドン引きしたけど大丈夫?」
「じゃあ、もう少し平易に言おうか」

 お話の盛り上がっている部分とは「仲間が増えた、戦いに勝利した、目標を達成した、物事上手くいっている!」というポジティブな部分を指します。対して、お話の落ち込んでいる部分とは「仲間を失った、戦いに負けた、挫折して夢も希望も失った、物事上手くいかなくてどん底」というネガティブな状態を指しています。普段の生活でも、今調子がいい、と言う時期と、あまり調子がよくない、と言う時期があるでしょう。それがお話の山と谷です。また、お話が後半になり、クライマックスに近づけば近づくほど、原則お話は盛り上がっていきます。
 具体的な例を見てみましょう。

起:魔王を退治するため旅に出る
承:魔王退治の道中、仲間が増える
転:魔王と戦う
結:魔王を倒してハッピーエンド

「これをグラフにするとこんな感じ」


「綺麗に上がってるね。左が物語の始まりで、右が終わり?」
「そうだ。縦の軸が、お話の盛り上がりを表している。基本的にお話が後ろに行くほど、物語と言うのは盛り上がっていく。起承転結でもそうだろ? 転に向けて一気に盛り上がっていって、最高潮に達する」
「でも、これだと単純だよね。普通に出発してそのまま戦って勝っちゃって……あ、だからグラフが単純に伸びてくだけなんだ」
「そう! こういう盛り上がりのグラフを描くお話を書くと、えてして『お話が単調』『意外な展開が無い』『え? もう終わり?』という反応が返ってくる」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「それが、突き落とされて這い上がれって事なのさ。もうひとつ例を見てみよう」

山と谷を作る事が、物語の勢いを作る

起:魔王を退治するため旅に出る
承:魔王退治の道中、仲間が増える
転:魔王と戦うが敗北、仲間が死ぬ
結:仲間の死を乗り越え、魔王を倒してハッピーエンド

「これをグラフにするとこんな感じ」


「仲間が死んじゃう所で落ち込んでる!」
「そう、暗い展開だからな。主人公は落ち込んだり、自責の念に駆られたりするだろう。お話としては思い切り谷になる。でも、それで終わったらお話にならない」
「つまり……仲間の死を乗り越えて、魔王にもう一度挑む、と」
「そう。そこが這い上がるところだ! このマイナスに思い切りお話を振って、次の瞬間叩き上げるやり方が、『突き落とされて這い上がれ』の極意だ」
「さっき言ってた、お話の勢いっていうのはどういうこと?」
「グラフを見てみよう。曲線を微分すると、曲線の接線の傾きになる。この接線の傾きがお話の勢いだ。微分は分からなくても、接線は分かるな?」
「うん、さすがに分かる……と思うよ、読者さんも。ちなみに、下のグラフの赤い線が接線ね。それでも分からない人は、円の接線とか思い出してみて。あの円が曲線になったのが下の絵だよ」


「一番左の赤い線を見よう。まぁ、30度ぐらいの角度で上がってるな。その次も同じぐらいか。だが、左から3番目だと違うな?」
「うん、一気に急降下してるね。傾きが大きなマイナスになってる」
「そして、その直後に今度は大きなプラスに転じてる。この接線の傾き具合、あるいは傾きの変化の大きさ(緩やかに上がるとか急に変わるとか)がお話の勢いだ。傾きが急なほど、お話が急展開している事を表している。すると、この接線付きグラフから何が分かる?」
「えーっと……途中までは緩やかに上がってるけど、途中で一気に急降下してどん底にたたきおとされて、その後一気に急上昇する!」
「グレイト! その急展開が起承転結の“転”。お話が一番盛り上がるところだ。どうだ、最初の単調に上がっていたお話より、展開は急だし、お話の雰囲気は急変するし、落ち込んだ後一気に盛り上がって“結”に向かっていくし、ずっと面白そうに見えないか?」
「たしかに! お話の単調さも解消されるし、それに、主人公にも変化があるように思える」
「ほう、言ってみ」
「えっとね、たとえば仲間が死んで落ち込んで……そのまま再度挑む事って難しいと思うの。きっと悩んだり、後悔したりして、その末に決意を新たにして再挑戦すると思うんだ。だって、主人公が同じままじゃ、一度落ちた所から上がれないもの」
「素晴らしい! お前はとても重要な事に気付いた。解説しよう」

お話の山と谷は物語を急展開させるだけでなく、主人公に変化を強いる

 お話を一気にマイナスに振って、その直後にプラスに転じるやり方は、ただお話の盛り上がり・緩急を変えることにとどまりません。その変化は、主人公に変化を強いるのです。失敗から学ぶ、仲間の死を無駄にしないと誓う、平和を望む自分の本当の気持ちに気付く……色々あると思いますが、どん底の時こそ(これはゲームに限らず、おそらく現実でも)、人は自分自身と向き合うのです。自分自身と向き合い、本当に自分が望んでいる事に気づく――この過程を経る事こそが主人公の変化であり、成長なのです。そして、私たちはその主人公の変化にこそ魅せられ、『面白い』と感じるのです。

「よく覚えておいて欲しい。経験値を貯めれば、まっすぐにレベルは上がっていくが、それは主人公の成長じゃない。ゲームとしては成長かもしれないが、シナリオとしては成長していない。突き落とされて、自分と向き合い、這い上がることで初めて成長するんだ。これが分かると、主人公の変化を描くのに長いプレイ時間やたくさんのレベル上げが必要でない事が分かると思う。短編の作品で面白いシナリオを書くコツがここにある
「ハムちゃんがアツい……」
「当り前だ。これは俺が身につけたノウハウの内でも最高の極意の一つだ。これをぜひお前に、そして読者のみんなに身につけて欲しい。とは言っても、上の例は本当に一番単純な物だし、他にもさまざまな要素がからむし、別のテクニックもある。が、それは別の回にしよう」
「ふぅむ……話は分かったけど、実際どんな感じで作っていったらいいのかな?」
「そうだな、じゃあ、ポイントとなる点を話して、例を示してみようか」

『突き落とされて這い上がれ』の実践


 実際に作っていくうえで、どんなふうに作ればよいのか4つに分けて考えてみましょう。

@事前の盛り上げ
 急降下の直前に当たる部分です。どん底にたたき落とす時の勢いをつけるため、できるだけプラス方向に引っ張っておくことが望ましいでしょう。たとえば、仲間とのきずなが深まる、大きな事件を解決する、ようやく主人公とヒロインが恋人同士になる……などでしょうか。失敗続きの状態からどん底に落とそうとしても、あまりインパクトはありません。成功⇒失敗という風に反転するから急降下となるのです。

A急降下
 一気にどん底にたたき落とします。主人公が可愛い気持ちは分かりますが、心を鬼にして突き落としましょう。たとえば、仲間が死ぬ、主人公とヒロインが大喧嘩して距離が離れる、事業に失敗する……などがあります。やるなら、徹底的に全てを失うぐらいのほうがいいでしょうし、全てを失い失意の底に沈む主人公の姿を描くのも効果的でしょう。いくつかパターンに分けると、
A.挫折するタイプ:仕事に失敗する、目標を達成できなくなる、など
B.絆が断たれるタイプ:仲間や知り合いが死ぬ、喧嘩する、生き別れる、など
C.財産を失うタイプ:直前までで成功して築き上げた財産を失う、など
 こういった物が挙げられるでしょうか。他にも、牢に入れられるなど物理的にどん底な状態にする事も考えられます。
 また急降下の仕方も、不可抗力で突き落とされる、主人公の失敗で突き落とされる、など色々と考えられます。どのような急降下の仕方にするかは、この後主人公がどのように立ち直るかによって考えます。主人公は、『自分の本当の望みに気付いて』立ち直るのです。それが出来るような急降下の仕方を考えましょう。

Bどん底で悩む
 どん底にたたき落とされた主人公の苦悩を描きます。ここは作者自身も書いていてつらい部分ではありますが、主人公と一緒に悩むぐらいのつもりで書いてみましょう。短くまとめてもいいですし、起承転結で小さいお話にしてもよいと思います。といっても、延々と挫折した主人公の様子を描き続けるだけでも芸がありません。回想を交えたり、誰かに相談したりするシーンがあってもよいでしょう。
 大事なのは、このBの最後に主人公が自分の望みに気付く、と言う事です。これを表すために、主人公が再び決意し、立ちあがるシーンがあってもよいでしょう。

C一気に急上昇
 主人公が自分の内なる望みに気付き、再び立ち上がった瞬間から急上昇です。突き落とした反動を利用して、一気にクライマックスへ駆け上がりましょう。起承転結のまさに“転”ですから、お話の急展開だけでなく、シーンが目まぐるしく変わるなど視覚的・シーン的にも勢いをつけ、アップテンポに行くのがよいでしょう。敵役との決着があるなら、この急上昇シーンの最後に決着をつけることになります。

「なるほど……これの具体例って、何かいいの無いかな?」
「恋愛物はいいぞ。大抵、このパターンを踏襲する。最初主人公とヒロインが仲良くなっていって、でも途中でいったん破局、このまま終わるのか……と思わせておいて、最後仲を取り戻して終わる」
「言われてみれば、多いかも」
「あと、参考になるのは映画、特にハリウッド映画だ。ハリウッド映画の脚本術を元にしたシナリオ技術というのがあるんだが、それは講座の最後にやりたい。俺のノウハウの集大成だからな」
「うっわー、出し惜しみ……」
「まぁ、楽しみにしていてくれ。とにかく、ハリウッド映画で主人公の変化を描く時には多用される手法だ。たまには、面白そうと思った映画を観に行くのもシナリオのノウハウを学ぶうちだな」
「オススメってある?」
「まぁ、好みもあるから何とも言えんが……ディズニー映画は上手いと思う。正直に。最近観た映画で、アニメだと『塔の上のラプンツェル』、実写だと『リアル・スティール』が良かった。作品としても面白いし、シナリオの勉強にもなる。もちろん、他にも良い映画はたくさんある。あと、俺がアクション映画好きでよく見るからかもしれんが、アクション映画は『突き落とされて這い上がる』主人公が多い気がするな」
「早速、明日にでもレンタルショップで色々借りてみようかしら」
「それがいい。ただ、一つ言うとすれば、3部作などいくつかに分かれている物より1作で完結している物の方がいいと思う(大ヒットして、結果的に続編が作られて3部作になっている物なら、1作目は大丈夫)」
「どうして?」
「3部作など続けるのが前提の映画は、次回作のために主人公の“伸びしろ”を残していたり、回収しない伏線を残していたりする。そのため、少々分かりにくい」

実例『To Realize!』

「さて、映画の話ばかりでもアレだから、最後にうちのゲームで実例を挙げよう。『To Realize!』だ。主人公のアルシェスがどん底にたたき落とされて再起するシーン……と言えば、遊んだ人はおのずと、どのシーンを指すか分かるはずだ」

 『To Realize!』を実例として、この『突き落とされて這い上がる』理論が使われている様子を解説しましょう。一応、未プレイの方のために反転してあります。

@事前の盛り上げ
 ・聖都、マグダレーナ邸での最高司祭とのやり取り(急降下のための伏線でもある)
 ・神聖騎士団から逃れる(知恵を尽くして成功……と見せかける)
A急降下
 ・魔王と戦い、敗北。クロノグラスを奪われる。(全体のお話での目的の失敗)
 ・勇者になれなくなる。(アルシェス個人の目的の失敗、挫折)
 ・ヒロインと喧嘩し、仲間も去っていく。(絆の喪失)
Bどん底
 ・敵が動き始める。(主人公の落ち込みと対比して、敵は着実に目標に進んでいく)
 ・セイラ(姉)との会話。(親しい人間との相談、やりとり)
 ・魔物襲撃、姉にかばわれて逃げる(変化の強制、過去の体験の再生)
 ・アルシェスは「勇者になりたい」という願望の裏にあった自分の本当の望み「魔物による悲劇を無くしたい」に気付く。
C一気に急上昇
 ・ヒロインと仲直り。仲間も戻ってくる。(絆の修復)
 ・アップテンポに反撃開始、反転攻勢。盛り上げるためBGMもボーカル曲。
 ・ボスを倒して一件落着(一度負けた相手に再戦して勝つ)。


「この後は、もうラストまで駆け抜けるだけだ。『To Realize!』では、この後ヒロインのエピソードを入れて恋愛面での最後の伏線を消化しておき、ラストダンジョンへ向かう」
「ヒロインとの恋愛要素があるけど、それは? 急降下と急上昇ってやってる?」
「あまり大きくないが、やってる。ラスボス戦の後のエピソードがそうだ。3人のヒロインのお話をそれぞれよく分析してみよう」
「む〜、これは自習ってことね」
「そうだ。自分なりに分析してみるのも大事な勉強だぞ。……さて、フィリス」
「ん? なぁに?」
「今度はお前がどん底に落ちる番だ、とりゃ〜!」
「きゃあああああっ!?」


今日のまとめ

1)シナリオの盛り上がりには山と谷がある。山と谷の傾きがお話の勢い。
2)急降下と急上昇はお話を盛り上げるために必要。
3)同時に、急降下と急上昇は主人公に変化を強いる。
4)どん底で主人公は自分の望みに気付き、成長する。
5)映画を見る事もシナリオの勉強になる。



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