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ゲーム制作講座column

敵と目的 〜“目的”が無ければ“敵”は生まれないのだ!〜

「ふはははは、よく来たな勇者!」
「魔王! 今日こそ決着をつけてやる!」
「まぁ、そうあわてるな。勇者よ、お前の望みはなんだ?」
「望み、だと? お前を倒し、世界に平和をもたらす事だ!」
「世界平和か、大いに結構。ならば、我が人間と戦をしないと約束すれば、我と戦う必要など無いことになるな?」
「戦をしないと約束する、だと……? そんなことが信じられるか!」
「いや、聞け、勇者よ。最近は魔王も楽ではなくてな。玉座にふんぞり返っていれば、領地からの収入で暮らしていける時代は終わったのだ。戦は金がかかるし、魔族の間にも厭戦気分が広がっている。挙句の果てには、革命を起こして民主的な国を作ろうと考えるもの達まで現れる始末だ」
「それは……大変だな」
「我もそろそろ戦をやめて、人間達と交易をし、国を豊かにしたい。どうだ? 勇者よ。我と人間の間の平和交渉のために働いてくれぬか?」
「……わかった、魔王! 俺も王様の言うままに魔物を倒す事には疑問を抱いていたんだ。これからは、ともに平和のために頑張ろう!」

「いや、ダメだろ」
「なんでー!? 勇者と魔王が一致団結して世界平和のために立ち上がる、感動のフィナーレじゃない!」
「あのな、オープニングで勇者にされて、ずっとRPGやってきたのにラスボスでこの展開は無いだろ。ラスボス戦はどうした、せっかく雪山の村にいる鍛冶屋の女の子から最強の剣までもらったのに……」
「でも、魔王側の話を掘り下げてたら、こういう展開しかないかなーって」
「喝っ! フィリス! お前は作ってはいけない敵役を作っている!」
「えぇ!? 人徳のある魔王は作っちゃいけないっていうの!?」
「違う! お前は物語の中における『敵』がどのような存在なのか分かっていない!」
「どのような存在? 戦う相手じゃないの?」

 物語の中における『敵』とは、どのような存在でしょうか? 主人公を邪魔する存在でしょうか? マップでエンカウントする相手でしょうか? 戦闘の相手、恋のライバル、商売敵、食うものと食われるもの……色々考えられますね。
 実は物語における『敵』には、絶対に外してはいけない共通項があります。それは『目的の対立』。これがなければ、その人物は絶対に『主人公の敵』にはなりえません。今日はモブキャラではなく、名前のある明確な敵を作るための方法を考えるとともに、それを通じて『主人公の目的』について考えてみましょう。

敵とは主人公と明確に目的が対立する相手

「物語における登場人物には、通常なにかの目的が設定されている。何のために戦うのか、とかな」
「平和のために戦う、とか、お金儲けしたい、とか、確かに普通はどんなキャラクターも目的を持っているよね」
「そう。その目的が対立した時、対立した人物同士は必然的に敵になる。……というより、必然的に敵になるものでなければ、『敵』と呼ぶ事はできない」
「んん? どういうこと?」

 敵とは主人公と明確に目的が対立する相手を指します。具体的に言えば、同じ目的を持っている(同じ財宝を手に入れようとしている、など)もしくは、互いに相容れない目的を持っている(ある人物を殺そうとする敵と守ろうとする主人公、など)存在が物語における『敵』となりえます。つまり、片方の目的が達成されると、もう片方の目的は必ず失敗する――という関係が成立する相手が『敵』と呼ばれる相手です。互いの目的がゆずれないため、『敵』との間には必然的に『戦い』が生じます
 たとえば、何かを奪い合う人物同士が例として挙げられます。とある秘宝をめぐって争う二人、という設定ならば、片方の人物が秘宝を手に入れれば、もう片方の人物は手に入れられません。それが秘宝ではなく魅力的な異性ならば、2人は恋のライバルになるでしょう。世界征服を企む悪の組織とそれを阻止する主人公、門を守る兵士とそこを通りたい主人公、などの構図も同様です。

「このとき、気をつけなければいけないことがある。それは、この目的の対立には絶対に妥協があってはいけない、ということだ」
「というと?」
「財宝を奪い合う2人が戦うとき、その財宝を2人で山分けする事になったらどうだろうか? 2人はそれ以上戦う必要があるだろうか?」
「まぁ、無いよね」
「異性を取り合う二人の前にもう一人別の相手が現れて、全員くっついてハッピーエンド、だったら?」
「みんな円満だから、たしかに争う必要はもう無いね。……あぁ、なるほど、お互いに絶対に譲れない目的があるから、戦うしかないんだね」
「そう。それが“必然的に”『敵』になる、ということだ。逆に必然的に敵にならないならば、それはちゃんとした敵とは言えない」

 すなわち、戦いとは目的の対立があって初めて生じるものなのです。これを分かりやすく考えるために、自然界で生物が戦う時の理由を考えてみましょう。生物には色々な種が存在し、それらが生態系の中に占める役割も様々ですが、実は生物(ヒトは除きますが……)が戦う理由には3つしかありません。すなわち、捕食・生殖・防衛です。
 捕食とは、相手を獲物として捕らえる事です。ライオンがシマウマを食べることですね。ライオンは獲物を捕らえなければ餓死してしまいますので、絶対に譲れません。防衛はこの逆です。シマウマから見れば、ライオンに捕まったら食べられてしまいますので、これも絶対に譲れません。お互い譲れないため、そこには戦いが生じます。また、防衛の範疇には自分のテリトリーを守る事も含まれます(テリトリーを奪われると生存に著しく不利になるため譲れません)。
 生殖も同様です。メスをめぐってオスが争う、というのは誰しも聞いた事がある話でしょう。自然界では、しばしば体が大きい、力が強い、といった強いオスが勝利します。また、鳴き声の上手いオス、泳ぐのが早いオス、のように、単に力の強弱ではない部分で争う場合もあるでしょう。しかし、全てに共通するのは、争いに敗れたオスは子孫を残せない(生物にとって子孫を残すことは絶対に譲れない目的ですね)ということなのです。
 しかしながら、満腹のライオンはシマウマを襲いませんし、恋の季節でなければオスはメスをめぐって争いません。このとき、彼らの中には戦う理由が無いのです。

「つまり、目的が対立している時だけ戦いが生じる。逆に言うと、目的の対立しない相手とは戦う必要が無いんだな。これは、物語の中にも当てはまる」
「たしかに、どんな作品も、主人公と敵が戦うときは何か理由があるよね。何かを奪い合うとか、譲れないものがあるとか、主人公が負けると世界が滅んじゃうとか……」
「そう。だから冒頭のコントのように、戦う理由がなくなってしまうと『敵』ではなくなってしまう。『敵』がいないと対立も争いも無いし、ひいてはそこから生まれるドラマも無くなってしまう。それだと、物語として成立しなくなってしまうんだな」
「むむむ……だから、ああいう展開は作っちゃいけないのね」

主人公の目的と観客(プレイヤー)の目的は一致する

「目的が対立する相手が『敵』となる……そうは言っても、目的には様々なものがある」
「主人公の目的って、たしかにどんなものにすればいいか悩みどころだよね」
「そう。主人公の目的を考えるときに意識しておきたいのが、『主人公の目的と観客(プレイヤー)の目的は一致する』ということだ」
「主人公の目的と観客(プレイヤー)の目的が一致する……って、どういうこと?」
「主人公はプレイヤーと同じ視点を共有する。だから、原則として主人公とプレイヤーの目的は一致する。たとえば、病気で苦しむ恋人を助けたい、と思うのは万人共通だろう。こういう目的を主人公に設定すると、見ている人は感情移入しやすくなる」
プレイヤーさんが共感できるような目的が必要、みたいな?」
「そうそう。ピカレスク系といって、主人公が悪人の場合も無いわけではないが、基本的に主人公の目的は一般的な人々の目的と一致するものだ。社会的に成功したい、大切な人を救いたい、失った夢を取り戻したい、などなど」
「たしかに、世界を滅ぼしたい! って言ってる主人公ってあんまりいないかも。仮に最初のうちはそう言ってても、物語の途中から考えが変わっていくのが普通だよね」
「その通り。共感できる目的であることが主人公の目的として重要だということだな」

 主人公の目的に共感できる事は、とても重要なポイントです。共感できるからこそ、主人公が敗北して目的を達せなくなったとき、プレイヤーは自分も何かを失ったように感じる事ができます。逆に目的を達する事ができれば、プレイヤーは自分も何かを達成したように感じることができるでしょう。

「敵側の目的から考えると分かりやすいかもね。敵が勝利して目的を達成しちゃうと、主人公の目的は失敗してしまう……つまり、それを見ているプレイヤーの目的も失敗してしまう。敵が世界を滅ぼしちゃったら、プレイヤーにとっては世界を滅ぼされちゃった、ってことになるもんね。それはちょっと嫌だなぁ」
「その通り。主人公の目的に共感できるからこそ、それを阻む敵との戦いがドラマチックになるし、主人公の勝利が面白いものになるのだ」

敵は主人公より強大でなければならない

「目的が対立する事が『敵』の必要条件だが、実はそれだけでは魅力的な敵とはならない。もう一つ必要な要素に『敵が主人公より強い』、ということがある」
「どうして?」
「敵が主人公より弱ければ、主人公は簡単に敵を倒して自分の目的を達成できてしまうからだ。ラスボスが一撃で倒せたら拍子抜けするべ?」
「たしかに……どんな作品を見ても、主人公が戦う相手ってすごく強いよね。戦いが強いこともあるけど、部下が大勢いるとか、お金がいっぱいあるとか、偉い地位にいるとか」
「そう。ここで言う強さとは、単純な戦闘力に限らないんだな。もちろん、ゲームには戦闘の要素があるから戦闘に強い事が多いが、そうでなくて王様など権力を持つ存在、大量の資金のある相手、のように強さにもいろいろな要素がある」
「自分より強い相手に勝つ方が、ドラマチックで面白いよね。でも、強い相手に勝つのは大変だよ。どうやって主人公を勝たせればいいのかな?」
「それこそ、作者の腕の見せ所だ。いかに伏線やギミックを仕込むか、いかに面白く逆転するか、知恵と想像力を駆使して作って欲しい」

 強大な相手にいかに勝つか。これこそ知恵の絞りどころであり、作者の腕の見せ所でもあり、作品の見せ場でもあります。こればかりは人に教えられるものではなく、人に教わって作るものでもないとは思いますが、簡単にテンプレート的なものは挙げてみましょう。ただし、これは絶対のものではなく、自分で考える事こそが大事だ、ということを忘れないで下さい。

1) 相手の裏をかく
 もっとも基本的なパターンでしょうか。敵の行動を読み、その裏をかくように作戦を立てたり、アイテムを用意したりするやり方です。敵をだまして倒す、というやり方もあるでしょう。敵に明確な弱点を作っておき、それを突いて倒す、というやり方もあります(アキレスのアキレス腱ですね)。

2) キーアイテムで逆転する
 これもよく見るやり方です。何かキーアイテムを用意しておき、その力で倒す、というようなものです。あるいは、キーアイテムを意外な使い方や本来とは違う使い方で用いることで相手の裏をかく、というやり方もあります。キーアイテムが重要な役割を担う作品ならば、やりやすい方法かもしれません。

3) 自分の弱点をひっくり返す
 これはやや難しいですが、主人公に明確な弱点が設定されている場合は、それを利用してひっくり返すことが可能です。たとえば、主人公が人間と魔族のハーフで、普段はそれを理由に差別されているため人間として振舞っているものの、最後の最後に魔族の力を使って逆転する、といったものでしょうか。このとき、単にひっくり返すだけでなく、キーアイテムを使って逆転する、など他の方法と組み合わせるやり方も考えられます。主人公自身の弱点だけでなく、仲の悪いコンビが最後の最後に協力する、というような人間関係の弱点を逆転するやり方もありうるでしょう。

4) 主人公が強くなる
 主人公自身が強くなって挑む方法です。オーソドックスといえばオーソドックスですが、ややひねりが無い感じはあります。戦闘能力的に強くなる以外に、資金を集める、仲間を集める、といったものも含まれるでしょう。これをやる場合、最後のどんでん返しでやるよりも、作品全体を通じて徐々に力をつけたり仲間を集めたりして少しずつ強くなる方がいいかもしれません。
 なお、そのやり方ならばRPGなどゲームには非常にマッチするため使いやすいでしょう。この際、強くなる過程そのものが面白いとなお良いと思います。

5) 仲間の力を借りる
 4)とやや重複しますが、作中の登場人物たちの力を借りて対抗するようなやり方です。それまで登場したキャラクター達が終結し、力を合わせて強大な敵に挑む、というやり方です。短編では難しく、長編向きのやり方だと思われます。

6) 助けが来る
 援軍が到着したり、意外な人物が助けに来たりするやり方です。この場合、助けに来た人たちが主人公の代わりに戦ってくれます。これもオーソドックスなやり方で使いやすい方法ですが、使うのは序盤など主人公がまだ弱いうちに限るのが良いでしょう。終盤のクライマックスやラスボス戦でこれをやると、主人公達が自分の力で目的を達成したことにならず白けてしまう原因になります。なお、助けに来た人の力を借りて主人公自身が戦うならば、5)のパターンになると思われます。

「以上、簡単にあげてみた。実際にはもっと色々なやり方があるだろう」
「作品の一番の見せ場になるんだから、知恵を絞って作らないとね!」

主人公の目的には『外的な目的』と『内的な欲求』がある

「最後にするのは、やや難しい話だ。主人公の目的には、実は二種類あるんだな」
「目的には二種類ある……って、どういうこと? 目的って一つじゃないの?」
「性質の違う二つの目的がある、ということだ。『外的な目的』とは目に見える目的、『内的な欲求』とは主人公の内面の目的だ」
「んん? どういうこと?」

 『外的な目的』とは、これまで考えてきたような一般的な目的です。魔王を倒して世界を救う、財宝を手に入れる、病気を治す薬を手に入れる、魅力的な異性と恋人になる、など色々挙げることができます。これは非常に分かりやすいもので、往々にして目に見える目的です。基本的に、これを達成する事がその作品の目的となります。作品を通じて変化しない事が基本ですが、長編作品など長い作品の場合は変化する事もあります。
 『内的な欲求』とは、主人公の内面的な悩みや欲求です。自分の居場所が欲しい、孤独から救われたい、失った夢を取り戻したい、など、人生の悩み、魂の要求です。これは目に見えるものではなく、また物語の始めでは主人公自身も気づいていないことが普通です。が、これを描く事で初めて、主人公の人間としての側面を描けるようになります。なぜなら、内的な欲求が満たされたり、自分の中の内的な欲求に気がついたりすることで、主人公は人間として成長するからです。このとき、『内的な欲求』と『外的な目的』は必ずしも関係している必要はありません

「これを理解するには、映画(中でもハリウッド映画)を見るのが良いだろう。特にお勧めは『レインマン』だ。時間があるならぜひ観てみよう」
「たしか、お金に困った主人公が施設にいたお兄さんを連れ出して、遺産の分け前を要求する話だっけ?」
「そう。あまりネタバレしてしまうのは好ましくないから、簡単にまとめてみようか」

外的な目的:遺産の分け前を得て、金を得る。
内的な欲求:主人公は始め、自分を金の亡者だと考えている。しかし、兄とのかかわりを通じて兄への愛情や人間味を取り戻していく。

「作品として達成する目的が『外的な目的』、主人公の人間的成長を描くのが『内的な欲求』と言ってもいいかもしれない」
「う〜ん、とは言っても難しいよ。ハムちゃんの作品だと、どんな例がある?」
「俺のゲームは、基本的にこれで作ってるよ。長編作品は全部そうだし、短編でも『Pray for You』はかなり意識してる。遊んでもらえばすぐ分かると思う」

一応、簡単に解説しておきましょう。(*ネタバレ防止のため反転)
・ -新説- UPRISING
外的な目的:帝国を打倒して新しい国を作る
内的な欲求:主人公リディアの人間的成長。孤独から救われたい、という願い

・ Pray for You
外的な目的:邪神狩り(幼い頃に遭遇した悲劇)を繰り返させない
内的な欲求:自分は“何も無い”人間だと思っている主人公が救われる

・ To realize!
外的な目的:勇者になる。クロノグラスを破壊する。
内的な欲求:魔物による悲劇をなくしたい

・ 木精リトの魔王討伐記
外的な目的:魔王を倒す
内的な欲求:当たり前の日々を守りたい


「また、作品の中で、時に主人公の『目的』が変化していくように見えることがある。外的な目的が(一見)達成されずに終わる事もある。たとえば、『当初はお金儲けを目的としているが、結局最後はお金を手にする事は無く、代わりに家族との愛情を取り戻す』といったようなものだ。これも、『外的な目的』と『内的な欲求』の二つがあると考えると理解できる事が多い。自分の作品で恐縮だが、『To Realize!』が分かりやすいので例として用いよう」

目的が変わるように見える例(*ネタバレ防止のため反転)
主人公アルシェス
外的な目的
 ゲーム開始当初:勇者になりたい
 エンディング時:自分の意思で勇者にならない

内的な欲求
 魔物による悲劇をなくしたい(幼い頃、魔物に両親を殺されたため)
 →外的な目的は達成されておらず、また主人公自身も外的な目的にこだわらなくなっている。これは自身の内的な欲求に気がつき、外的な目的の価値が変化したためである。ただし、当初の目的とは違う形ではあるが、社会的に成功したり、一定の目的を達成したりする事も多い(アルシェスも、勇者の任命は受けないが、世間一般には勇者として認知されている)。


「内的な欲求に気づいたり、それが満たされたりするシーンを意識的に作ってもいいかもね」
「そうだな。たとえば、Pray for Youでは最後に主人公が自分の名前を取り戻すシーンがある。そういったシーンを意図して入れれば、分かりにくい主人公の内面の成長も描きやすくなるだろう」


「ふぅ〜、今日の話は難しかったね」
「普段何気なく作っているものでも、こうして見直してみると意外と難しいものだろう。改めて意識する事で、きっと良いものが作れるようになるはずだ」


今日のまとめ

1)『敵』とは目的の対立する相手である。
2)主人公と敵の目的はお互いに譲れないものであり、それゆえ戦いが生じる。
3)主人公の目的とプレイヤーの目的は一致する。
4)敵は主人公より強大である。いかにして主人公を勝たせるかが腕の見せ所。
5)主人公の目的には『外的な目的』と『内的な欲求』がある。



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