「帝国を倒す・・・そんな事をして、一体何をするつもりだ?
「・・・皇帝の暴挙を止めて、もっといい国を作って見せる。
「私たちのような・・・苦しむ人を生み出さない国を作る。
「苦しむやつを生み出さない国・・・
「・・・・・・ どうだ、帝国を倒すために手を組まないか?
「今はやられそうだったけど、きっと役に立つぜ。 一緒に連れてってくれないか?
「・・・いいよね?
「連れてく気なんだろ?
「いいわ。一緒に行きましょう!
「ありがとう・・・ じゃ、帝国を倒すために一緒に行こうぜ!
「うぎゃあああああっ、やめろーーーー!」
「うわぁっ、ハムちゃんが壊れた!」
「お前な! 『漫画家殺すにゃ刃物は要らぬ、昔の作品見せりゃいい』って格言を知らんのか!」
「うふふ、もちろん、知ってるに決まってるじゃない」
「鬼か、お前は!」
「懐かしいなぁ、これ、UPRISING無印のシーンでしょ?(*顔グラフィックは著作権の関係で作者が描いたものにしてあります)」
「そうそう。キョウが仲間になるシーンだよな。……もう10年ぐらい前になるのか、これ。知ってる人、何人ぐらいいるんだろう?」
「今見返すと、下手な会話ねぇ。他のところも見てみる?」
「やめろ! やめてくれ! 怖いよぉ! 昔の作品怖いよぉ!
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」
「トラウマみたいになってるな……」
「黒歴史だからね」
「というわけで、今日はハムちゃんの昔の作品をさらして徹底的にいじめぬく講座です」
「いやだああああっ!」
「えー……今日は、ゲームシナリオにおける会話の書き方講座です」
セリフや文章を上手く書く技術は、特にストーリー重視のゲームを作る際には必須といっていいものです。ゲームだけでなく、小説を書く時にも必要不可欠なものでしょう。今回の講座は、キャラクターの会話の書き方を中心にゲームシナリオの書き方を勉強しましょう。
「やめろっ! これ以上昔の作品をさらさないでくれっ!」
「いいから、始めるぞ」
まずは、簡単に文章の基本を見てみましょう。ここで言う基本とは、あくまでゲームシナリオにおける会話文を書く上での基本であり、ちゃんとした小説や論文、報告書などを書くときの書き方とは異なる事に気をつけてください。
1) セリフ部分は「」で囲む
ゲームではウィンドウに文章が表示されるため、「」で囲まない場合もあります。が、原則としてキャラクターのセリフ(発言)は「」で囲みます。『』や“”は違う意味のものですので、セリフを書くときは必ず「」を使いましょう。
また、通常は文章の終わりに句点(。)をつけますが、「」の最後の部分は句点をつけないのが普通です。
×→「今日はセリフの書き方講座です。」
○→「今日はセリフの書き方講座です」
また、キャラクターが心の中で考えている内容については()で囲む事が多いようです。
2) 『!』や『?』の後は一文字分あける
「やめろっ! これ以上昔の作品をさらさないでくれっ!」というように、『!』の後に文章を続ける場合はスペースを一文字分空けます。これは文章を見やすくするための工夫といえます。『?』も同様です。ただ、その後が 」 で終わる場合は空けません。
一般に、ちゃんとした小説では『!』や『?』を多用する事は推奨されないようですが、ゲームシナリオでは多用する傾向があります。気にせず使っても問題ないでしょう。
3) 『……』三点リーダを使う
冒頭の昔作った会話は、セリフの間(ま)を表現する際に『・・・』と誤った書き方をしています。中点(・)は、いくつかの要素を並列して並べる際に用いるもので、間を表現するときは三点リーダ(…)を使用します。パソコンでは『・・・』(中点3つ)と入力すると『…』に変換できる事が多いです。この…を二つ(……)ないし四つ(…………)並べて使用するのが原則です。特に長い間を表現したいときは、8個、12個など、4の倍数ずつ伸ばすことが多いようです。
三点リーダだけでなく、――(ダッシュ)、〜〜(波線)なども同様です。
4) あえて単語の間にスペースを作る
一般的な文章ではあまりやりませんが、単語の間にスペースを作って区切る事で文章を読みやすくする工夫もあります。
「今日は リディアちゃん と お買い物に 行くんだ!」といったような書き方です。読点(、)を打つとおかしくなるけれど、文章が横に長いため読みづらい……というような場合に用いると読みやすくなるでしょう。
また、ある単語を目立たせるためにあえてスペースを用いる事もあります。
例:「この先へ進むというなら、身を守るための 剣 を与えよう」
5) 顔文字は使わない
ネットの文章とは違い、ゲームシナリオでは顔文字は使いません(小説も同様です。コメディ調のライトノベルなどでは使う事もあるようですが……)。感情の表現はふきだしやキャラクターの動作、顔グラフィックを用いて表現しましょう。ちなみに、文章だけでそのキャラクターの感情を表現できるようになったら一人前だと思います。
「ゲームシナリオって言うけど、小説とは何が違うんだ?」
「う〜ん……普通、地の文が無いわよね。ほら、会話以外の文章の部分って、ゲームだと無いじゃない」
「セリフの量自体も、小説より多いんじゃない? 最近のライトノベルは、会話部分が結構多いみたいだけど」
「周りの風景とかキャラクターの動きを、イラストやアニメーションで見せるのもゲームの特徴だな。小説だと、基本的に地の文で表現する」
「それなら、説明的なセリフが多いのもゲームの特徴じゃない?」
「うむうむ、色々出ているみたいだな。今言ってくれたようなことで合っていると思う」
「こういうゲームシナリオに似ているものって、何か無いの?」
「映画や演劇の脚本が極めて類似している。……とは言っても、脚本なんて普通はなかなか入手しづらい。そこでお勧めしたいのが岩波文庫から出ている『ロミオとジューリエット』だ」
「シェイクスピア? 有名な古典ね」
「岩波文庫なら、普通に入手できそうだな」
ためしに、『ロミオとジューリエット』(岩波文庫 著:シェイクスピア 訳: )の一部を引用してみましょう
『
ティバルト よし、相手になってやる。
〔剣を抜く〕
ロミオ おい、頼むから、マーキューシオ、剣をしまってくれ。
マーキューシオ さあ、こい、さあ突いてこい。
〔両者、闘う〕
ロミオ ベンヴォーリオ、君も剣を抜いて、二人の剣をたたき落としてくれ。
おい、君たち、こんな乱暴を働くなんて恥ずかしいと思わんのか!
』(『ロミオとジューリエット』P.120 シェイクスピア作 平井正穂訳 岩波文庫)
「小説かと思ってたけど、演劇の脚本なのね」
「こうしてみると、確かにゲームシナリオと似てるね。会話部分はそのままセリフにして、登場人物の動作はアニメーションとかイベントの動きで表現できそう」
実際に自分がシナリオを書くときも、同じように書いてみると良いでしょう。セリフ部分は「」で書き、地の文としてアニメーションやイベントの動作を書き加えます。それ以外に、BGMの指定、画面エフェクト、SE、ふきだし、画面の色合いの変更、戦闘、顔グラフィックの指定など、必要と思われる事を書き添えていくと良いでしょう。複数人でゲームを制作しており、シナリオを人に見せる必要がある場合は特に細かく(誰が見ても分かるように)記述しておく事が必要です。
なお、『ロミオとジューリエット』には、キャラクター同士の軽妙なやり取りの描き方、会話でシーンを面白くする方法、セリフにキャラクターの性格や作品のコンセプトをこめるやり方、など非常に学ぶところが多くあります。本当に勉強したいと思っている人は、ぜひ読んでみるべきでしょう。
「俺の講座読むより、『ロミオとジューリエット』読んで勉強した方が面白いシナリオ書けるようになると思う」
「ハムちゃん、自己否定しちゃダメ!」
「作者も、『ロミオとジューリエット』を生かしてるのかな?」
「『木精リトの魔王討伐記』は、生かしてるみたいよ。キャラクター同士の会話(掛け合い)の描き方とか、セリフの書き方の多くはロミジュリから学んだみたい」
「ゲームシナリオって、会話が中心よね」
「たしかに。この講座もそんな感じだけど、会話だけで文章が進んでいくっていうのは、小説ではあまり見ないな」
「会話を上手に書くコツって、なにかあるかな?」
「普段の会話をイメージして書くのが大事だな。それ以外に、とても重要な意識の持ち方もある。3つほど、重要な点を挙げてみよう」
1)口語と文語は違う:セリフは口語で書く
「口語と文語? なんだ、それ?」
「口語っていうのは、話し言葉。普段、会話するときに使ってる話し方だね。文語は書き言葉。文章を書くときに使う書き方かな」
「ちょっと前まで、文章は漢文で書いていて、話し言葉とは全然違ったんだよ。あの頃は、口語と文語の区別なんて一目瞭然だったんだけどなぁ」
「……ちょっと前? お前、そんな所で自分の年齢を出さなくても――」
ぐしゃああああああっ!
「たしかに、作文とか報告書とかを書くときの文章の書き方と、普段話してる時の話し方って、少し違うよな」
口語と文語の違いについては、インターネットで調べれば詳しく解説しているページも多くありますので、ここでは割愛します。原則だけ、簡単に書いておきましょう。
文語
文章で書くときの書き方。一概に言えないが、『〜である。』『〜と思われる。』といった文末の表現をする、スラングや省略した話し方(ら抜き言葉など)はしない、一人称は原則『私』、文章の論理構造を分かりやすくするため接続詞を用いる、といった特徴がある。この講座で言えば、会話以外の地の文の部分に当たる。
口語
会話するときの話し方。語尾や人称は多様であり、その多様性自体がキャラクターのセリフや関係性の表現になる(後述)。スラングや省略した話し方をするほか、接続詞を使わずに『間』を使う事で話題転換する(これも後述)。この講座で言えば、キャラクターのセリフ部分に当たる。
「そうすると、キャラクターのセリフや会話を書くときは、口語を使うほうがいいってことになるね。普段の会話と同じような文章になるもの」
「う〜ん、でも、普通に誰かと会話するならともかく、普段の会話を文章で書くのって結構難しいね」
「そのキャラクターの性格とか話し方も、意識しておかないと書けなさそうだな」
ゲームシナリオに限らず、小説などでも会話部分は口語で書き、地の文(会話以外の部分)は文語で書く事が一般的のようです。ただし、アドベンチャーゲームやライトノベルの一部のように主人公の一人称視点で地の文を書いている場合は、地の文も口語にする傾向があるようです。
2)話題の転換は『間(ま)』を空ける
「間を空ける……って、どういうことかな?」
「一呼吸おくって事じゃないか? 普段の会話でも、なんとなくみんなの会話が一瞬止まることってあるじゃないか」
「たしかに。そういう時って、大抵別の話題になったりするよね」
『間』とは、会話において非常に重要な要素です。実は会話に限らず、プレゼンテーションや演説、演劇、芸能においても『間』はきわめて重要な要素です。人を馬鹿にする言葉に『間抜け』という言葉がありますが、これは『間』を上手く取れない事を揶揄した言葉です。
普段の会話を思い出していれば、会話の中に『間』が起きると話題が変わることが多い事に気づけるでしょう。実際、私達は普段の会話において、接続詞によって話題を変えることよりも間を空ける事によって話題を変えることの方が多いのです。
これはセリフを書くときにも使う事ができます。「よし、じゃあ〜」「そうしたら」「ところで」「そういえば」「そうそう、〜」といったような接続詞を使わなくても、ウェイトを入れたり、「……」を用いたりする事で簡単に話題を変えることが可能です。そして、このようにして話題を変えたほうが、文章がずっと普通の会話のようになります。私のゲーム(特にリト)ではこの手法を用いていますので、意識して見てみると面白いかもしれません。
3)シナリオライターには2つの役割がある
「会話はキャッチボールだ……っていうのは、よく聞く話だな」
「自分の言いたい事だけ言うんじゃなくて、きちんと相手の話を聞いて、それに対してレスポンスを返す、ってことだね。キャラクターのセリフも会話なんだから、確かにキャッチボールする事は大事だよね」
「……でも、キャッチボールするだけでいいのかな?」
「どういうことだ?」
「普段の会話とか雑談なら何を話してもいいと思うけど、ゲームや小説でそれをしてもいいのかな? キャラクターが好きに話してるだけじゃ、お話が進まなくなっちゃわない?」
「たしかに、それはあるかも……登場人物が雑談してるばっかりでお話が進まないんじゃ、読んでる人もイライラしちゃいそうだね」
キャラクター同士の会話を上手に描くためには、会話のキャッチボールをして、自然とわいわい盛り上がる会話を書きたいところです。一方で、キャラクター同士を好きにしゃべらせているだけではお話が先に進まなくなってしまいます。それを解決するために、シナリオを書く時、作者には二つの役割があるのだ、という事を意識しましょう。すなわち、(1)会話の主体と(2)お話の進行役の二つです。
たとえば、TRPGにはゲームマスターとプレイヤーの二つの役割があります。プレイヤーは好きに会話をしてゲームをする一方、ゲームマスターは適度に会話をまとめてお話を先に進めます。あるいは、ネットゲームのゲームマスターとプレイヤーを想像しても近いでしょう。プレイヤーは自由に会話したり遊んだりする一方、ゲームマスターがクエストやシナリオを用意して一定の方向に進むようにします。テレビで例えるなら、フリートーク系のバラエティ番組が近いでしょうか。芸能人などが自由に会話しつつも、適度なタイミングで司会の人物が話をまとめて番組を先に進めます。
このように、主体となって自由に会話をする人と、それをまとめてお話を進行させる役の人の2種類が存在する事が分かります。ゲームシナリオ(小説も)を書くときは、作者はこの二つの役割を同時にこなすことになります。
「基本的には、キャラクターに好きにしゃべらせるけど、時々軌道修正してお話が先に進むようにする、ってことだね」
「別の人物が登場するとか、どこかに到着するとか、会話以外の方法でもお話を先に進めることはできそうだな」
「最後は、日本語について考えてみよう!」
「語尾とか人称とか、たしかに日本語ってびっくりするぐらい表現があるよね」
たとえば、『兄』という同じ相手を呼ぶ人称にも「お兄さん」「お兄ちゃん」「お兄様」「兄貴」「兄上」「兄者」「お兄たん」「にいにい」など複数挙げることができます。自分自身への人称も「私」「俺」「自分」「あたし」「あたい」「僕」「余」「わし」「ミー」「それがし」「わがはい」「俺様」など。「ボク」「アタシ」などカタカタにすることで別の雰囲気を出す事も可能です。
語尾も同様です。ですます調、である調の区別だけでなく、口語では「〜だぜ!」「〜よね」「〜だわ」など枚挙に暇がありません。男性が使うもの、女性が使うもの、「〜だにゃ」のような特殊なもの、という区別だけでなく、その人物の性格を表現する事も可能です。
「たしかに、そのキャラクターの性格って話し方に出るよね。性格とセリフはつながってるわけか」
「そうね。話し方の雰囲気って、人称とか語尾ですごく変わるものだから、それでその人の性格を表現できそう。それだけじゃなくて、話してる相手との距離感まで表現できる気がする」
「たしかに、仲間と話してる時と敵と話してる時で、話し方って変わるもんな」
「キャラクターの特徴づけにも利用できそうだね。セリフの部分だけでどのキャラクターが話してるのか区別できるぐらい、きちんと差別化するといいかも」
「『木精リトの魔王討伐記』は、けっこう意識してセリフを差別化してるみたい。見てみるといいかもね」
「ふぅ〜、充実した講座だった! 2人とも、ありがとうね!」
「いいの、いいの。久しぶりに登場する機会があって楽しかったわ」
「そういえば、一人足りなくなってるけど……」
返事が無い。ただのしかばねのようだ。
「いいの、いいの。返事が無いのも返事の一種だからね!」
「いいのかなぁ、こんなグデグデな終わり方で……」
1) 文章には基本的な書き方がある。勉強して使えるようになろう。
2) ゲームシナリオは脚本に似ている。岩波文庫の『ロミオとジューリエット』はお勧め。
3) ゲームシナリオは会話主体。1.口語と文語に違い、2.話題の転換には『間』を空ける、3.ライターの二つの役割、を意識しよう。
4) 日本語には多様な表現がある。使いこなして、キャラクターの表現につなげよう。