「ハムちゃん、ハムちゃ〜ん! 町を作ってみたんだよ〜!」
「おぉ、本当かフィリス! ちゃんと前の回(『町の人の作り方』&『特徴ある街づくり』)を読んで作ったか?」
「えっへん。もちろんでしょ。この私の完璧な街を見て驚いちゃってよ」
……
「ずいぶん広い町だな……町の門からして、すでに画面内におさまってないぞ」
「そりゃ、王国の首都、王都だからね!」
「町の中を人が等間隔に並んでるんだが……なにか意図があるのか?」
「やっぱり、人はバランスよく配置したほうがいいかな、って」
「家がすごくたくさんあって、中にも入れるのはいいんだが……家の中に誰もいないな」
「やぁねぇ、ハムちゃん。家はタンスとツボと本棚を調べるためにあるのよ?」
「お、ここが主人公の家か! ……ほかの家と間取りも内装も一緒だけど」
「主人公の家は、タダ回復とセーブのために存在するからね」
「…………」
「…………」
「あほぅ! こんな町があるか!」
「うわぁ、ハムちゃんがキレた!? 何が悪いって言うの!? 町の人もきちんと作ってるし、手抜きマップじゃないし!」
「それは悪くないんだが、なんていうか、こう、もう一歩足りないんだよ! 今日は街づくり上級編だ! ええい、歯を食いしばれ!」
ぐしゃああああああっ!
「るはああああああっ!?」
「だって、歯を食いしばれって言うから」
「何に対する言い訳だ!?」
街づくりというのは、RPGを作るうえでも大変な作業の一つです。以前の講座で特徴ある町の作り方、そして町にいる人のセリフの作り方を解説してみましたが、実は他にもいくつか気をつけなければならない点があります。
・ 町の人を適当に配置していないか?
・ 何も無いだだっ広い部屋を作っていないか? 広すぎる空間を作っていないか?
・ 内装はきちんと作っているか?
などなど……これらの点は、意識しないとついつい良くない作り方をしてしまう点です。たとえば、王城の広さを演出しようとして無意味に広い部屋を作ってしまう、家がたくさんあったほうがいいと思って人のいない民家をたくさん作ってしまう、バランスよく町の人を置こうとして等間隔に人を配置してしまう……など。ダメではないし、状況によってはそれもいいのだけれど、あまりやらない、といったところでしょうか。今日はそんな街づくり上級編をやってみましょう。
「まず、町の中の人の配置について、かな」
「これは、どういうことなの? バランスよく人がいた方がいいような気がするけど」
「ケースバイケースだろう。実際の町を見てみれば、広場や大通りは人が多いが、裏通りには基本的に人は多くない。同様に、ゲーム内でも人の配置には粗密をつけた方が自然になる」
「人の配置の粗密、ねぇ……具体的には、どういうことかな?」
人の多い場所:広場、大通り、市場、など
人の少ない場所:裏通り、墓地、牢屋、町外れなど
「一般的に考えて、人が多そうな場所と少なそうな場所だな。難しく考える必要は無い」
「人の配置を工夫すると何がいいのかな?」
「ひとつは、メリハリをつけられることだ。ずっと同じテンポで町を歩くより、人の多い場所と少ない場所、のように変化があったほうが歩き回るときに面白いと思う。前の回でも言ったけど、町の人は端役として存在している。つまり、街の雰囲気を表現するためにいるわけだな。これを一歩進めて、町全体の雰囲気の表現だけでなく、町の中の場所ごとの表現をする事もできるわけだ」
「たしかに、人がたくさんいると活気があるイメージになるし、人がいないと静かなイメージになりそうだね。他には何か無いのかな?」
「特別に人を集中させる事で、イベントの存在を示す事ができる。たとえば、町の広場に人垣が出来ていて、その中心で踊り子が踊っている……となれば、その踊り子には何かイベントが起きそうだと示唆できるわけだな」
「逆に、人がたくさんいるはずの場所から人がいなくなってたら、なにか異常事態が起きてるのかも……って思わせられるね。人の配置だけでも表現できる事が多そうだね」
「マップの配置に、“密度”という概念はとても重要だ」
「密度? マップの広さじゃなくて?」
「密度だから、広さも関係する。つまり、同じ広さのマップの中にどれだけ物を詰め込むか、だな。それは内装やイベントだったりする」
たとえば、10*10のマップに10人の人がいる場合と、100*100のマップに10人の人がいる場合を比べたら、どちらの方が密度が高いでしょうか? 言うまでもなく10*10の方です。マップを作る際、マップの広さ自体は誰もが意識すると思いますが、その密度となるとなかなか頭が回らない事が多いようです。たとえば、広いマップを表現しようとして、何もイベントや小物が存在しない、とにかく広いだけのマップを作ってしまう場合などです。
「たしかに、ただ広いマップってついつい作っちゃうね。広間を作ったはいいけど壁と床が広がってるだけで、端の方に申し訳程度に鎧が置いてある、みたいな」
「そうだろう。広さだけ考えているとつい作ってしまう。こういう“密度の低い空間”を作ってしまうと、悪い場合手抜きの印象をもたれてしまう恐れもある」
「げっ、それは困るかも……どうすればいいのかな?」
「そこで密度を意識しよう。広いマップを作るなら、狭いマップと同様に人や小物を配置するようにする」
「でも、置ける人や小物にも限度があるよ。その時は?」
「マップ自体を狭くする方がいい。思い切り広くしないと広くならない、という風に思う人は多いようだが、実は少し広くするだけでもプレイヤーはちゃんと広く感じるものだ」
他にも民家があります。広い町であることを演出しようと民家を多く作るのは全く問題ないのですが、人のいない民家を作ってしまうと手抜きの印象をもたれてしまいます(おそらくただ広いマップを作るよりも、そう思わせてしまうでしょう)。人のいない民家にするぐらいなら、民家を作らない方がよいかもしれません。作るならば、きちんと家具や間取りを工夫し、町の人も配置しましょう(町の人の作り方は前の回を参照のこと)。
「さっき密度って言ってたけど、密度はどういう風に意識しておくといいかな?」
「できるだけ高密度になるように意識した方がいいと思う(人によって違うと思うけど)。手ごろな広さのマップに、きちんと小物やイベントを配置すればさほど難しくないだろう。ツクールVX Aceを使っている人なら、サンプルマップを活用するといい。家具や小物が配置されていないから、そこは自分で作る必要があるが、さすがサンプルとして作ってあるだけに広さや間取りの設計はよく出来ていると思う」
「サンプルマップを参考にして、自分なりに作るのも良さそうだね」
「町の中でも、主人公や重要なキャラクターの家は特別に作ろう」
「これは、分かりやすいね。特別に作られた家のほうが印象に残りやすいと思うし」
「その通り。それに、家は住んでいる人物の性格や人物像を非常によく描き出す。たとえば、豪邸に住んでいれば裕福な人物である事は一目で分かるし、部屋の中がごちゃごちゃなら片づけが苦手な人物である事を表現できる」
「マップ一つでも、色々な事を表現できるんだね」
RPGにおいてマップは重要な要素の一つです。それは作品の作りこみをあらわすものであると同時に、多くの表現となりうるものです。とはいえ、普通の町の人(端役)の家まで必要以上に凝る必要は無いでしょう。ストーリー上重要なキャラクターとそうでないキャラクターの差別化も大事な点の一つです。
「なるほど〜、マップもまだまだ奥が深そうだなぁ」
「俺も、決して上手いとは言えないけどね。いつも言うようだけれど、何気なく作っているものも、意識を変えることでより良くすることが出来ると思う。この講座は実践的なテクニックを伝えるだけでなく、そういった意識を変えるきっかけになることも目指しているから、ぜひ自分なりに色々考えてみて欲しいな」
1) 町の人の配置に粗密を持たせる事でメリハリをつけることが出来る
2) 町の人を集中させると、イベントの存在を示せる
3) マップの密度は常に意識する。高密度を意識するのがお勧め
4) マップは様々なことを表現できる