「うおおおおっ! なんてこったあああああ!」
「うわぁ、どうしたの? ハムちゃん」
「俺としたことがっ! こんだけシナリオ講座やってたのに!」
「やってたのに?」
「キャラクターについて何も講座書いてない! 昨今、キャラクター物とかキャラクター小説とか、とにかくキャラクターは重要な地位を占めているというのに、完 全 に 忘 れ て た !」
「……あれ? てっきり、ハムちゃんは『好きなおかずを最後にとっておくタイプ』だと思ってた」
「とっておくタイプだけど、今回ばかりはミスった! よし! キャラクターの作り方やるぞ! 俺について来い!」
「えーっと、今日のハムちゃんは『熱血リーダータイプ』、と」
魅力的なキャラクターを作ることは、昨今の日本の創作においては必須と言えるかもしれません。ゲームはもちろんですが、小説・ライトノベルやマンガ、アニメにおいてもキャラクターを作ることは最重要な課題の一つとなっています。時に、『キャラクター商品』『キャラクター小説』というような言い方を聞くこともあります。
しかし、魅力的なキャラクターを作るのは難しい。魅力的でなくてもいい、オリジナルのキャラクターが作りたい……そんな風に思う人は多いのではないでしょうか。かく言う私も、毎回、企画書の段階からキャラクター作りには悩んでいます。
今回は、そんな作品作りの要――キャラクター作りについて考えてみましょう。
「キャラクターを作る時、最初に作らなければいけないものとは、なんだろうか?」
「はい、は〜い!」
「はい、フィリス君」
「名前!」
「違うな」
「えーと、じゃあ、容姿!」
「それも違う」
「じゃあじゃあ、武器とか特殊能力! 眼帯外すと目からビームとか!」
「どんな厨二病設定だ! 違う! 最初に考えなければいけないのはストーリーだ!」
「キャラクターじゃないし!」
キャラクターを作るとき、最初に考えなければいけないのはどんなことでしょうか? 性別? 扱う武器? 髪型や瞳の色? 趣味? 好みや嫌いなもの? エトセトラエトセトラ……ではありません。最初にやるべき、そして最も重要なことは『ストーリーと連動した軸となる設定』を作ることです。
「とはいえ、最初に容姿が決まっていてはいけない、ということではない。別に、ネットや制作ソフトにあった素材が気に入って、それを主人公にしたい! と思ったなら別にそれでもいい」
「ハムちゃんは、割とグラフィックからキャラクター作るよね」
「見た目だけね。中身は今も書いたとおり、ストーリーと連動して作っていく」
ストーリーと連動したキャラクターを作る。一枚のコインの表と裏にストーリーとキャラクターを作る、と言ってもいいかもしれません。実はこれこそ、私たちが作るキャラクターが『オリジナル』になり、『魅力的なキャラクター』になるために必須の条件ではないかと思います。
試しに、今、目の前に紙を用意して、キャラクターを作ってみましょう。主人公、ということにしましょうか。絵でもいいし文章でもいいし、思いつく通りにやってみてください。
「よーしっ、ちょっと書いてみるね! みんなも書いてみて!」
「別に簡単でいいからな」
……作りましたか? さて、そのキャラクターをよく見てみると、それが様々な特徴や性質の集合体であることに気づくはずです。性格や容姿の特徴、武器、生い立ち、趣味、隠された設定、などなど……ですが、それは『設定の集合体』であって『キャラクター』ではありません。そう、キャラクターだけ作ろうとしても『キャラクター』は作れないのです。
「そのことに気づかないと、『キャラクター』は作れない。言い方を変えれば、『物語の登場人物』は作れない。たとえ、ノート1冊分そのキャラクターの設定を書いて並べたところで、そのままではただの設定資料集にしかならない」
「うわ、手厳しい……」
たとえば、いわゆる萌え要素を考えてみるとわかりやすいでしょう。学生、メイド、ナース、巫女、幼馴染、魔法少女、メガネっ子、金髪、委員長、ツンデレ、メカ、猫耳、妹、ボクっ娘、巨乳……まぁ、数え上げればキリがないのですが、えてしてヒロインなど女性キャラは何がしかの萌え要素を持っていることが多いことに気づくでしょう(まぁ、萌え要素自体が人気のあるキャラクターの最大公約数的設定なので、含んでいることが多いのは当然といえば当然なのですが……)。重要なのは、私たちがキャラクターを考えるとき、意識的・無意識的にこれらの『ある要素のリスト』の中から設定を選択しているのだ、という点です。これは萌え要素に限りません。武器、性格、容姿などは、それぞれ意識的・無意識的にリストから選んでいることが少なくありません。
「言われてみれば、そんな気も……まるで、ツクールの顔グラフィック生成システムみたいだね。顔の輪郭はこれ、目はこれ、髪型はこれ……って選んでいくだけで、キャラクターの顔ができる、みたいな」
「いい喩えだ。ストーリーから切り離してキャラクターを作ろうとすると、どうしても様々な要素のリストから、それぞれの設定を選んで組み合わせていく形になってしまう。しかし、それでは魅力的なキャラクターは作れないんだな」
「じゃあ、どうすれば魅力的なキャラクターが作れるの?」
「それが、『ストーリーと連動した軸になる設定を作る』ってことだと俺は考えている」
結論から言いましょう。ストーリーとキャラクターは不可分です。ストーリーがキャラクターを生み、キャラクターがストーリーを作ります。一見すると『ニワトリが先か、卵が先か』の議論のように「どっちが先だ!?」という考えに見えますが、そこは難しく考えず、好きな方から作ればいいと思います。それこそ、“思いつき”から出発してもいいでしょう。出発点はどこであっても、ストーリーとキャラクターを一緒になって作ることが重要なのです。
たとえば、可愛い木霊のグラフィックを見て「木霊の女の子を主人公にしよう! どんなストーリーにしようかな?」と考えて、その子が勇者にされて苦労満載の冒険をする、というお話を考えてもいいですし(『木精リトの魔王討伐記』)、「故郷の村を失った女の子が仲間と一緒に革命を起こすお話を作ろう! どんな女の子を主人公にしようかな?」と考えて、剣士で金髪ハーフエルフの女の子を主人公にする、と考えてもいいでしょう(『-新説-UPRISING』)。
「軸となる設定、っていうのは、どういうものを言うのかな?」
「ストーリーと結びついた、そのキャラクターの一番根幹となる設定だと考えている」
軸となる設定とは、そのキャラクターを貫く必要不可欠な設定です。それは抽象的なものであることが多く、たとえば『誰からも期待されていない勇者』『魔剣を手にしてしまった少年』『お姫様を救いに行くジャンプが得意なヒゲの配管工』のように表現できるものです。これをしっかりと作ることがストーリーと連動したキャラクターを作る上で重要と言えるでしょう。
余談ですが、この時できるだけ一文で表現するのがコツです。字数なら、30字以内でしょうか。30字というのは、ひとつの概念を説明するのにギリギリな字数であり、この範囲で説明できれば、その概念についてかなり理解していることになります。端的に説明することは、実は長々と説明するより難しいのです。キャラクターについても同様です。一文で特徴や軸となる設定を言えれば、そのキャラクターの本質的な部分はつかめていると言えるでしょう(ストーリーや世界観も同様です)。
「まずは、ストーリーと一緒にキャラクターを作る……そしたら、そこからどうすればいいの? それだけじゃ、単なる思いつきのままだし、あれこれ追加してるうちに、結局設定の寄せ集めになっちゃいそうだよ」
「そのとおり。そこで、次は『連想ゲーム』というキャラクター作りのコツについて書いてみよう」